04 合コンに誘われたのは、六月の半ばのことだった。 大学の友人によると、「もうすぐ夏休みだし、彼女なしでは夏休みは過ごせないし」ということらしい。 俺は別に、彼女なしでも夏休みは過ごせるし、だったので早々に断った。 そもそも見ず知らずの女の子と話すのは得意じゃない。 前に何度か誘われた時もそうしていたから、友人もいつも通り「そうか」の一言で引き下がると思っていた。 しかしそうはいかなかった。 やけに食い下がってくるので詳しく聞いたところ、相手の女の子達に、俺が行くと既に伝えてしまっていたそうだ。 何を勝手に、と思ったが、「どうしても相手の女の子のうち一人のナントカチャンとお近づきになりたい」と泣く泣く言われては断れない。 仕方ない、その代わり奢ってや、と言って、承諾した。 合コンは戦場だ、という言葉を思い出した。 それから、戦場でもないけど、結構な無法地帯やな、と思った。 一応、お酒は成人以上という建前でスタートしたものの、テーブルの上にアルコールの入っていないコップは見当たらなかった。 始まった時は四対四で戦っていたはずなのに、いつの間にか、入口からすぐの座敷にいるのは五人になっている。 酔っぱらった男が早々に戦線を離脱し、トイレに駆け込んだ。 あと二人、俺を誘った友人と女の子のうち一人は、ちょっと酔っちゃったみたいだから風に当たってくるね、と言ったきり消息を絶った。 男二人に、女の子三人。 不利や。 俺が白旗を上げて、ぶんぶんと振りまくってから、早くも三十分が過ぎようとしていた。 あー、もう誰でも良いからこっから助けてくれ。 神様、仏様、とにかくお願いします。 心の中で祈りつつ、俺は隣の女の子に愛想笑いを続ける。 君、いつの間に、着てたカーディガン脱いだん?寒くない? 俺は寒い。 主に悪寒的な方で。 「お、白石くんやん」 背中から自分の名前を呼ぶ声がしたので、反射的に振り返った。 立っている人物を見て、俺は驚いた。 「本当だ。白石くんだ」 侑士くんとゆりこさんが店員に案内され、店に入って来たところだった。 二人は俺のいる戦場に、同時に目を向けた。 「合コン?」侑士くんが驚いたように言い、「合コン?」ゆりこさんが嫌悪感を丸出しにして言った。 「合コン」 と俺も答えた。 すると俺の縋るような視線に気づいたのか、侑士くんが突然、ぽんと手を叩いた。 「なーんや、俺達との約束ドタキャンしたと思ったら合コンかあ」 と言って、わざとらしく俺の肩を抱く。 もしかしなくとも、助けてくれるんですか。 一瞬にして侑士くんの意図を、若干自分に都合の良いように汲み取った俺も、彼に合わせて無駄に明るい声を出した。 「すまんなあ」 「いや、許さへん。ここで会ったのが運の尽きや。今からでも一緒に飲も」 「せやな。約束を破った俺が悪いしな」 「よし、行こか」 侑士くんが俺を立たせる。 俺もそれに従う。 カーディガンを脱いだ女の子が、唖然としているのが横目に見えた。 何が起こっているのかさっぱり分からないんだろう。 誰も俺を止めなかった。 もしかしたら、愛想笑いばっかりだった俺に、いい加減みんな飽き飽きしていたのかも知れない。 とやはり俺はその場の状況を、自分に都合の良いようにとらえた。 スニーカーを履き、侑士くんに次いで、そそくさと店の奥へ歩き出す。 「じゃ、後は若い者同士で楽しんで」 傍観を決め込んでいるもんだと思っていたゆりこさんは、ぽかんとしている戦場に向かって、静かにそんなことを言った。 [←] | [→] |