横浜駅東口の改札口を出てすぐに、にやにや笑っている銀髪頭を見つけて、柳は思いっきり顔をしかめた。 その顔を見ても怯みもせずに、仁王はこちらにやってくる。 あれから一週間経っても、携帯電話は見つからなかった。 ありそうな場所はあらかた探してからようやく、あの時盗まれたのだ、と柳は気付いたのだった。 「偶然じゃのう」 白々しく言う男の横っ面を、引っ叩いてやろうかと思った。 「携帯を返せ」 仁王は、ハハ、と笑って、ポケットから黒の携帯電話を取り出した。 柳のものだ。 「やっぱりお前か」 「手癖悪いんじゃよ」 「最低だな」 「やって、そうでもせんともう一度は会えんじゃろ?」 打って変わって悲しそうな表情を浮かべる。 「…別に」 「んじゃ、あの場で番号でもアドレスでも聞けば教えてくれたんか」 仁王の顔は真剣だった。 柳は何も答えられない。 「ほらな」 そして、諦めたような顔をする。 「とにかく返してくれ」 「嫌じゃ」 携帯電話を掴もうとしたのに、それはヒラリとかわされてしまう。 手だけが所在無さげに宙に浮かんだ。 「デートしてくれたら返しちゃるよ」 [←前へ] | [次へ→] |