青年は仁王雅治というらしい。 歳は同じ十九。 都内の専門学校に通っている。 独特の訛りがあるが、小学校まで南の方にいたらしい。 今知った。 俺んことが知りたいならそこの喫茶店にでも!と言われて、半ば引きずられるようにして、すぐ傍にあったチェーン展開しているコーヒーショップに連れて行かれた。 コーヒーを二つ頼んでいる間、仁王は終始にこにこと笑っていて、席に着いた途端べらべらと喋り出した。 「ほんじゃ、次、お前さんの番」 「はあ」 「やる気ないのう。んじゃ、名前は?」 「柳蓮二」 「柳、は分かるけど、れんじの字は分からん。どんなん?」 「蓮根の蓮に漢数字の二」 「蓮二…ほーう、綺麗な名前じゃのう。ちなみに俺の雅治は、福山さんとこのやつと一緒な」 「はあ」 柳はコーヒーを啜りながら、気の無い返事を繰り返す。 「歳は?」 「同じだ。十九」 「おお!運命じゃ!」 仁王がはしゃぐ。 それなら、世の中の十九歳はみんな運命共同体というわけか? 「ここら辺の大学に通っとんの?」 「まあ」 「頭ええじゃろ、絶対。なんかそんな気ぃする」 柳は肩をすくめる。 「趣味は?あ、待った、当てるけぇ。んー、野球とかどうじゃ」 「まさか」 「ありゃ、違うんか」 「しいて言えば読書だな」 「お、なんかそんな感じするのう」 だったらなぜ最初にそれを言わないんだ。 どうも仁王からは、胡散臭いものを感じた。 「仁王は何の専門学校に通っているんだ」 「仁王じゃないぜよ。雅治じゃ、雅治」 「雅治」 「ん、あれじゃ、お菓子作るやつ」 「パティシエ?」 「そう、それ。友達に超のつく甘党男がおってのう。でも、男一人でケーキ屋に行くのは恥ずいっち言うけ、俺がパティシエになって、好きなだけ食わしちゃるっちゅう感動もんの約束をしたんじゃ」 仁王は、涙を拭う真似をする。 柳は、あ、嘘だな、と思った。 [←前へ] | [次へ→] |