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「すごかったのう、蓮二のホームラン」
仁王はいたく上機嫌だ。
「なんでも出来るんじゃな」
と笑顔で言った。
学校で切原と丸井の二人と別れて、仁王の家への道を、手を繋いで歩いていた。
指と指をぎゅっと絡めて。
恋人同士だから、恋人繋ぎ。単純明快。

「なあ」
「なんだ」
「俺、蓮二だから好きなんじゃよ」
ぽつり、落とすように仁王は呟いた。
「そりゃ最初はあいつの代わりじゃ思ってたけど、今はもう少しもそんなこと思っとらん」
「嘘だろう」
「嘘じゃなか」
「なら、なんでメール一本寄越さなかったんだ」
「へ?」
「メールでも電話でも言い訳はいくらだって出来ただろう」
「だって」
と仁王は苦い顔をした。
「だって蓮二怒ってたじゃろ」
「別に怒ってはいない」
「嘘。じゃあなんで連絡くれなかったんじゃ。月曜にくれるっちゅうたんに」
「それは…」
「嘘つきじゃ。蓮二の方こそ嘘つきじゃ」
拗ねたような表情をして、仁王は平気でそんなことを言う。
嘘つきはどっちだ。
「お前なんかずっと嘘をついていたくせに」
「もう絶対につかん。一生本当のことしか言わんから、聞いて」
仁王の指に力がこもる。
ぎゅっと強く握られた手を引かれ、倒れこみそうになったところを、そのまま反対の手で抱きしめられた。
「好きじゃ。蓮二だけ。蓮二への好きは他の誰とも違う。特別じゃ。特別好きじゃ」
頬にかかる息は柔らかい。
その一つ一つが全部嘘で出来ていたとしても。
信じてやってもいい。
「蓮二、好きじゃ」
「ああ」
「信じて」
「ああ」
「本当?」
「ああ」
「嘘ついたら一生許さんよ」
「ああ」
全部信じるよ、と柳は思う。
へへ、と嬉しそうに笑って、仁王は体を離した。
そしてまた歩き出す。

「なあ、一個良いこと教えたろうか」
いたずらを仕掛ける子どものように、仁王は目をきらきらと輝かせている。
「なんだ?」
首を傾げる柳の耳元で、仁王は囁く。
「あのな、あいつ、ホームランなんて打ったことなかよ」
「え?」
「あいつなあ、ほんまに野球好きやったけどどうしようもなく下手っぴじゃったけえ。俺は一度もあいつがホームラン打つとこなんか見たことない」
仁王は繋いだ手をぶんぶんと振りながら言った。
前から来た夫婦が、微妙な顔をしながら通り過ぎて行ったけど、そんなものは気にもならなかった。
「蓮二はあいつとは全然違うぜよ。野球よりテニスが好きだし、和食の方が好きだし、モンブランは苦手だし。それに、ホームランも打てる」
鼻の頭に皺を寄せて、子どものように笑って。
「蓮二はあいつとは似ても似つかん」
柳は泣きたいような、でも笑いたいような、不思議な気持ちでいっぱいになった。
ああ、と頷き、指に力をこめてみる。
繋いだ手の温もりはきっと本物だ。



-end-





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ここまでお読みいただき、ありがとうございました。
ようやく完結です。

ぎりぎり間に合った…!
柳さんお誕生日おめでとう!

最後までお付き合いいただき、本当にありがとうございました!

次ページに、エピローグとして後日談を付け足しました。
よろしければ読んでみてください。
ではでは。


管理人:きほう

2011/06/04 初出
2011/09/08 加筆修正
 


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