最初の会話は思った以上にぎこちなかった。 前はどうやって話していたんだっけ、と思いながら、柳は必要なことだけを手短に告げた。 仁王はただ、うん、うん、と相槌を打っていた。 分かった、という仁王の声を聞いて、電話を切った。 仁王の母校の校庭に、四人はいた。 四人、複雑そうな顔をした切原はボールが何個も入ったかごを持っていて、仁王も意味が分からないという顔をしている。 仁王に連れてこられた丸井はもっと微妙な表情だ。 柳は木製のバットを持っていた。 「あの、蓮二?これから何するんじゃ?」 「野球だ」 「四人で?」 「二人でだ」 柳の返答に、仁王はますます顔を歪めた。 「俺がホームランを打つんだ」 「え?」 と驚いたような声を上げたのは丸井だった。 「お前が?無理だろい」 「無理じゃない。切原くん」 「はいっ」 「よろしく頼む」 「う、うぃっす!」 切原が距離を取るように、校庭の向こうへ歩いていく。 柳もそれとは反対へと歩く。 ベースも何もないが、大体この辺だというところで、バットを構える。 仁王と丸井はもう何も言わずに見ている。 「んじゃ、いきますよー」 切原が大きく振りかぶり、ボールが飛んできた。 ぶん、とバットを振ってみるが、球が当たった感触は無かった。 空振りだ。 後ろへ行ったボールは気にせずに、もう一度バットを構える。 ボールが飛んでくる。 バットを振る。 ボールが飛んでくる。 振る。 何度も何度もそれを繰り返した。 繰り返すうちにバットにボールが当たるようになり、更に、遠くに飛ぶようになった。 ボールが飛んでくる。 バットを振る。 ボールが飛んでくる。 振る。 次第に体中汗でべとべとになってきた。 振る。 息も上がっている。 ここからじゃ分からないが、投げている切原もきっとそうだ。 振る。 腕が重くだるくなってくる。 また振る。 ボールがよく見えるようになってきた気がする。 単なる気のせいかもしれない。 振る。 本当に不思議な力があるんだろうな。 柳は会ったこともない仁王の親友に向けて、念を押すように、頭の中で呟く。 振る。 本当に本当だろうな。 バットをぎゅっと強く握る。 切原が構える。 大きく振りかぶる。 ボールが飛んでくる。 白いボールが迫ってくる。 バットを振る。 力を入れて、目一杯に振りぬく。 カーンと音がして、白いボールは飛んでいく。 ぐんぐんと遠くへ、どこまでも飛んでいく。 「…ホームランだ!」 丸井が言った。 「柳さん!走って!」 切原が叫んだ。 柳はよく分からないまま、走った。 一塁、二塁、と勝手に決めて、ぐるっと弧を描くように走る。 そもそも、野球のルールをよく知らない。 ホームベースの位置は忘れてしまったので、とりあえず、なぜかえらく感動している様子の恋人の元へ行って、ハイタッチだ。 [←前へ] | [次へ→] |