週が明けても、柳は仁王に連絡する気にはなれなかった。 どういう言葉から始めるべきか分からなかった。 どうしたってこの間のことが話題に上がってしまうだろうし、そこから先、一体どうしたら良いのか分からなかった。 ひどいやつだ、最低の大嘘つきだ、と罵って、向こうがごめんと言ったらそれで終わりなのか。 それでまた元通りになれるのだろうか。 全て、何も知らなかった前と同じように? 柳にはどうしても、そこから万事上手くいくとは思えなかった。 思えない限りは進めなかった。 ぼうっとベッドに寝転がっていた。 何もする気になれなかった。 どうせ、何をしていても考えることは一緒だった。 目をつぶると、瞼の裏にくっきりとあの写真が浮かんだ。 少し恥ずかしそうにはにかむ真ん中の少年の顔は、柳自身もびっくりするほど似ていたのだ。 初対面の丸井が、柳を雨宿りさせる気になったのも。 彼の弟や切原が、柳の顔をじっと見ていたのも。 全部、そのせいだったのだ。 なにもかもが馬鹿馬鹿しい。 とんだ茶番に付き合わされた。 そう思っているのに、柳はどうにかしてそこに縋り付いていたかった。 そしてそんな自分が惨めで恥ずかしかった。 ふいに、『親友の代わり』と言った仁王が頭に浮かんで、柳は頭をぐしゃぐしゃと掻き毟って、枕に顔を埋めた。 月曜日が終わって、火曜日が来て水曜日が来ても、柳はまだ仁王に連絡出来ないでいた。 仁王からも何の連絡もなかった。 謝罪や言い訳のメールも来なかったし、電話も掛かって来なかった。 連絡はどうしたんだという連絡も、なかった。 このままなんとなく離れてそれで終わりなんだろうか。 そんなのは嫌だと思っているのに、どうしたら良いのか分からなかった。 こうしたら上手くいく、という解決方法が全く考えられなかった。 木曜日はよく晴れていて、テレビではお天気お姉さんが「洗濯日和です」と明るい声で言った。 学校へ行き、授業を受けて、昼食をいつもより多めに取り、また授業を受けて。 そして帰り道、柳はいつもとは反対方向の電車に乗っていた。 考えても考えても、何も良い方法は見当たらなかった。 その代わり吹っ切れた。 どんなことをされたって、仁王のことを好きな気持ちは変わらないのだ。 茶番がしたいのなら、最後まで付き合ってやろう。 精一杯親友の代わりを演じてやるから。 電車を降りる。 柳は携帯電話の通話ボタンを押した。 [←前へ] | [次へ→] |