予報通り、金曜日は朝から雨がひどかった。 まさにバケツをひっくり返したような、雨だ。 柳は大学に行って授業を受けて、コーヒーショップで時間を潰してから仁王の家に向かった。 大体このくらい、と仁王に言われた時間だ。 ロボットの大群みたいな住宅街に入ると、ちょうど小学生の帰宅時間とかぶったのか、ランドセルを背負った子たちがたくさん歩いていた。 石ころを蹴っていたり、何の遊びをしているのか、しきりにジャンプしていたり。 雨の日でも子どもは元気だ。 柳は微笑ましくなって、傘の中で口元を緩めた。 仁王の家について、インターホンを押す。 ピンポーン、と家の中で鳴るのが聞こえた。 しかし、誰も出てこない。 今日は家に誰もいない、そう言っていたから、仁王が帰っていない限りは誰も出てこない。 ピンポーン、と確めるためにもう一度押してみるが、やはり誰も出てこなかった。 時間を見ようと携帯電話を取り出すと、手の中でそれが震え出した。 仁王からのメールだった。 『実習伸びてるからちいと遅くなる。ごめんな』 実習中にメールをするなよ、と思いながら、『大丈夫だ。待っている』と返信する。 まだ学校ということは、あと三十分以上は待つことになる。 しかし、この辺に時間を潰せるようなところがあるだろうか。 仁王の通っていた高校の近くにはファーストフード店があったが、そこまで行くのも億劫だ。 それに柳はあまりファーストフード店が好きではなかった。 特に、高校が近くにあるようなところは。 ぼうっと突っ立っていると、傘に隠れた柳の顔を、誰かが覗きこんできた。 「うわっ」 いきなりのことで、思わず声を上げてしまう。 「あ、悪い」 赤い髪の男だった。 柳よりも身長は低く、丸いくりくりとした目をしている。 柳はそっと男から離れる。 「仁王、待ってんの?」 それなのに、男はまた近づいてきて、話しかけてきた。 仁王の友達だろうか。 「ああ」 「あ、今日誰もいない日だもんなあ」 と家の方を見やる。 「どんくらいで帰ってくるか、分かってんの?」 「さあ…。三十分くらいだろうか」 男の話し方は、無遠慮だったが、嫌な感じはしなかった。 まるで十年来の親友に会ったかのように、軽く朗らかだ。 「そんなに待てんのかよー」 とおおげさに驚いた顔をする。 それから、ううん、と考えるように眉間に皺を寄せた。 表情がくるくると変わる男だった。 「な、うちで雨宿りしてけよ」 ぱっと表情を明るくして、男は言った。 「いや、そんな初対面の人に…」 「大丈夫だって。俺、仁王の幼馴染なんだ。ていうか、俺んち、そこ」 と隣の家を指差した。 表札を見ると、丸井、と書いてある。 「小さいやついてうるさいかも知んないけど、雨ん中立ってるよりはマシだろ」 と言って、な、と歯を見せた。 [←前へ] | [次へ→] |