週末は軒並み雨予報だ。 月曜日は台風も上陸するらしい。 「昔、台風一過のこと、どっかの家族のことじゃと思うちょった」 「台風一家?」 「たぶん、そう」 「子どもらしい間違いだな」 「蓮二にもそういうことあったん?」 「覚えていないけどあっただろうな」 「へえ」 と仁王は大げさに目を見開いた。 「なんか想像つかん。蓮二は生まれたときから、何でも知ってそう」 「なんだ、それは」 いつものコーヒーショップで、学校帰りに会っていた。 小さな丸いテーブルに、二人分のカップと皿が並んでいる。 柳はいつもブレンドだったが、仁王は行く度に違うものを頼んだ。 そして必ず、「研究じゃ」と言ってケーキを頼む。 いいと言っているのに、柳の分まで、頼む。 「蓮二がこんなちっさい子どもだったっちゅうんが信じられんもん」 仁王が自分の腰の位置に手をやった。 「お前こそ、生まれた瞬間から嘘をついていたのかと思っていたが」 「え、俺がいつ嘘ついたんじゃ」 「それがもう嘘だろう」 「えー」 下唇を突き出して、拗ねたような顔をする。 「でも見てみたいのう」 「何を?」 「ちっさい蓮二」 仁王がチーズケーキにフォークを突き刺す。 「な、どんなだった?」 「どんな、と言われても」 うーんと考えてみる。 「髪が長かった」 「長かったって、どんくらい?」 「肩くらい。おかっぱだったんだ」 「ほう」 「そのせいでよく女子と間違われた」 「おお」 仁王はなぜか嬉しそうだ。 「ますます見たい」 「そんな期待するようなものでもないぞ」 「のう、今度会うとき写真持ってきて」 「構わないが…お前のも見せろよ」 「ええよ。なーんも面白いことないきに。髪が黒いくらいで」 「それだけで想像出来ないな」 「そうかあ?」 「いつからその色なんだ?」 「んー、中学くらいかのう」 「それからずっとなのか?」 「まあ大体は」 「それは髪が痛むわけだな」 仁王の髪のぱりぱりとした感触を思い出す。 「蓮二は髪綺麗じゃもんなあ」 しみじみと、仁王の口調は懐かしむようだ。 「蓮二の髪、好きじゃ」 手が伸びてきて、髪に触れた。 優しく撫でて梳いて、また元の位置に戻っていった。 コーヒーショップを出ると、ぽつぽつと雨が降り始めていた。 「ありゃ、もう降ってきとる」 予報では今日はぎりぎり曇りだったからか、歩いている人で傘を差しているものは少ない。 「蓮二、傘持っとる?」 「一応」 「じゃ、いれて」 「駅はすぐそこだから、必要ないだろう」 と駅の方へ歩き出す。 「恋人と相合傘したいとか思わんの」 「残念ながら、思わない」 「じゃあ、相合傘はええから、金曜うち来て」 と仁王は言った。 「別に条件が無くても」 と柳は言った。 [←前へ] | [次へ→] |