「ゼリーと水饅頭とどっちがええ?」 部屋に着いて早々、仁王は言った。 なによりもまず胃袋、というのが、彼らしくて良いな、と柳は思う。 「水饅頭」 「和物のが好きなんじゃっけ」 「食べなれているからな」 「んじゃ、下行って取ってくるけえ、待っとって」 と言って、仁王は一階に下りていった。 仁王の家は似たような家ばかりが並ぶ住宅街にあった。 白い壁に、焦げ茶色の屋根、全体は細長く、庭とも呼べないような小さなガーデニングスペースがある。 右も左も、その横も何軒も同じだ。 柳は以前見た、無表情なロボットの大群が出てくる映画を思い出した。 道路を囲うように建っている家は、人間を襲いはしないだろうが。 仁王の部屋は思ったよりも綺麗だった。 今日のために綺麗にしたのかも知れない。 一つだけ気になったのは、飾ってある写真立てに写真が入っていないことだった。 元々インテリアとして置いているだけなのか。 それとも訳があって抜いたのか。 なんとなくそれが引っ掛かった。 しかし、仁王が冷たいお茶と水饅頭の載ったおぼんを持ってきたことによって、そんなものは頭の隅っこに追いやられてしまった。 「美味いな」 「そりゃ良かった」 水饅頭の感想を口にすると、仁王は嬉しそうな顔をした。 「これも雅治が作ったのか?」 「まあの。もう癖みたいなもんじゃ。暇んなると甘いもん作る」 「悪くない癖だな」 「おー…」 と照れくさそうにして笑う。 仁王は時々、小さな子どもみたいな笑い方をする。 顔をくしゃっとさせて、鼻の上に皺が寄る。 その顔が、柳はとても好きだった。 「で、俺はどうすれば良いんだ?」 ベッドに組み敷かれ、やっと口を解放してもらったところで、柳は言った。 仁王の仕掛けてくるキスの、一番最初はいつも小さい。 軽く、触れるか触れないかのキスだ。 そして必ず、彼はどこか怯えたような表情をしている。 キスの後で柳の顔をじっと見つめ、それから、何事もなくて良かった、というようにほっと息を吐いて、ようやく柔らかく笑う。 その後で、もう安心だというように、深くキスしてくるのだ。 「何もせんでええよ」 「何も?」 「じっとしてて。俺が何しても、ただじっとしとって」 そう言うと、仁王は柳の首筋を撫でた。 首の次は胸を撫で、腹を撫で、後を追うように唇が這っていく。 柳は言われた通りにじっとしていた。 目だけで仁王の顔を見て、指先を追って、また顔を見た。 次第にじっとしていられなくなって身を捩ったが、仁王は何も言わなかった。 [←前へ] | [次へ→] |