休日を利用してテニスをしよう、と提案してきたのは仁王だった。 「どの休日?」 「明日、火曜日」 火曜日は平日だし、更には祝日でもなかった。 「俺は休日じゃ」 と仁王は言った。 仁王の時間割の、週休の三日目が火曜日であることは、柳も知っていた。 「俺は休日じゃない」 と柳は言った。 しかし、結局は火曜日にテニスをすることになった。 仁王は中々テニスが上手かった。 聞けば、中学の頃は関東大会まで進んだこともあると言う。 柳も同じく関東大会に出場した経験があったので、もしかしたら本当に顔を合わせていたのかも知れない。 「はー、休憩、休憩じゃ」 仁王が汗をかいた顔をぱたぱたと扇ぎながら、コートに座り込んだ。 「暑くてたまらん」 と言って、今度は着ているティーシャツをぱたぱたとした。 確かに暑い。 テニスをして走り回ったというのもあるけど、今日は気温も高かった。 梅雨をすっ飛ばして、夏だ。 「飲み物でも飲むか」 「じゃなあ」 のろのろと立ち上がった仁王とともに、すぐ近くの自販機に向かった。 スポーツドリンクが上半分を占めている自販機だった。 「生き返るのう」 「本当だな」 気温は高かったが、風は涼しかった。 自販機が良い具合の影も作ってくれていた。 すぐ近くに学校があるのか、部活動らしき吹奏楽の音が聞こえる。 「あ、これ、アルプスいちまんじゃくじゃないか?」 「んー…おお、本当じゃ」 「野球の応援でもするのだろうか」 「いや、それはありえん。うちの高校、野球、めちゃんこ弱いけえ」 「うちの高校?」 「あ」 仁王はそこで、しまった、という顔をした。 「あー、うん」 取り繕うように苦笑いしている。 「…すぐそこなんよ、俺の通ってた高校」 とテニスコートの後ろ側を指差す。 「で、俺の家があっち」 と今度は反対方向を指差した。 「テニスして疲れたじゃろ。実はうち、すぐそこやから寄ってくか?…ちゅーのが今日の本当の目的でした」 とばつの悪そうな顔をする。 「テニスは口実じゃ」 「なんだそれ」 柳は思わず呟く。 [←前へ] | [次へ→] |