綺麗はこわい | ナノ

06 帰り道




柳と仁王は、柳が行く予定だった和菓子屋に来ていた。
柳が取りに来た菓子を待っている間、色とりどりの和菓子を見ていると、仁王はなんだか楽しくなってきた。

「のう、参謀、あのお菓子綺麗じゃ」
「ああ、冬らしくて良いな」
「あっちのもええの」
「お前が、和菓子にそこまで興味を示すとは、意外だな」
参謀と一緒やからなんじゃけど…とも言えず、仁王は、お得意の擬音でごまかした。
「…ピヨ」


「お待たせ致しました」
奥から、店員が包みを抱えて現れた。
「お代はいただいておりますので。いつもありがとうございます」
柳が、包みの入れられた紙袋を受け取る。

「もう終わりなん?」
「ああ、付き合わせてしまってすまなかったな」
「いや、ええけど。それより、そんなにたくさん買うんじゃな」
仁王は、柳の持つ紙袋を指差す。
「茶を点てる時のものだから」
「茶!?参謀、そんなんするんか!」
「変か?」
いやいや、むしろ似合いすぎ。
つーか見たい…!

でも、そういえば、と仁王は思う。
俺って、参謀のことあんま知らんのう…。
参謀の方は、データとか取ってるくらいだから知ってそうじゃけど。

店を出ると、柳が、仁王に向き直った。
「仁王は、そっちだろう?今日はありが…」
「いや、俺もそっちじゃ」
「え…?」
柳が、不思議そうな顔をして、仁王を見つめる。
「送ってくぜよ」
俺の知らない参謀のこと、もっと、知りたいんじゃ。


「…本当に良いのか?」
「何度も言いなさんな」
怪訝な顔で聞いてきた柳に、仁王が答えた。
「参謀は綺麗やから、襲われるかも知れんしの」
そう言うと、柳はふっ、と笑った。
「180も身長のある男を、襲うやつなんかいないだろう」
「いやあ、分からんぜよ」
俺は、今すぐ、襲いたくてたまらんしのう。

「参謀の家ってこっちなんじゃな」
話を変えるように、仁王は言う。
「仁王の家とは、反対方向だな」
「そうじゃのう。参謀んち見るん初めてじゃ」
「普通の家だが」
それでも良い、と仁王は思った。
何でも良いから、知りたいのだと。
いや、何でも良いというのは、少し違った。
俺が、本当に知りたいのは─。

「…参謀は好きな人とかおるん?」
「え?」
「あ…っちが」
しまった、と思った時にはもう遅くて、仁王は、思っていたことがそのまま口から出てしまっていた。
仁王らしくない失敗だった。
なんつー間抜けなんじゃあぁぁ…!

「いや、あんな…」
「そういうのは、等価交換だと思うぞ」
「は…?」
取り繕おうとした仁王に、柳はそんなことを言った。
「だから、お前はどうなんだ?教えてくれたら、俺も教える」
な、なんかよく分からんけど、ラッキーじゃ!

「俺はいるぜよ」
「…本当か?」
「本当じゃ。すごく、好きなやつ、いるぜよ」
「どんなやつなんだ」
「信じられんくらい、綺麗なやつじゃ」
お前じゃ、と言えたら、どんなに良かっただろう。
しかし、今の仁王には、それを言う勇気も、言ってどうにかなるという勝算も無かった。

「…参謀?」
「え、あ、すごいな。あの仁王を落とすなんて…」
「どんなイメージなんじゃ、俺は」
「来るもの拒まず、去るもの追わず、だな」
好きな人を言った途端、黙ってしまった柳に、仁王は少し期待したが、この分では、何とも思っていなさそうだった。
なーんじゃ…って分かってたけどの…。

「さ、次は、参謀の番じゃ」
わくわくと期待した仁王が言う。
「ああ」
と、柳が急に立ち止まった。
「ん?どしたん、参謀」
「残念だが、タイムアウトだ」
と言って、横の家を指差した。
「家に着いてしまった」
「なんじゃそれ!ずるい!」
眉間にしわを寄せる仁王に、ふふ、と柳が笑みを漏らす。

と、その時、ガチャという音がして、柳の指差した家のドアが開いた。

「あら?蓮二、お帰りなさい」
「え、ああ、ただいま」
「お友達?」
ドアから出てきた女の人が、仁王を見て、言った。
「あ、ああ」
「こんばんは」
仁王は、即席の笑みを作る。
「へー。真田くんと幸村くん以外に、珍しい。上がってってもらいなさいよ」
「は…?」
「そうさせてもらいますー」
「え!仁王!?」
言うが早いと、仁王は、ポーチを開け、女の人の元に寄る。
柳も、慌ててそれを追ってきた。

「私は、出かけるけど。というか何も無い家だけど。ゆっくりしてってね、仁王クン」
女の人はそう言うと、二人の横を抜け、開けっ放しのポーチを通って行ってしまった。

…なーんで俺の名前知っとったんじゃろ。
あ、さっき参謀が呼んどったか。
ま、そんなことはどうでもええがの。
仁王は、隣で困惑した様子の柳に向かって、「延長戦じゃな」と囁いた。



[] | []


人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -