10 回想の廊下 中学生の時のことを、思い出す。 テニスコート、大会。 思い出の中の彼はいつも、辛子色のユニフォームを着ていた。 高校に入ってからのことを、思い出す。 ユニフォームの中に、わずかに制服を着た彼が混ざった。 柳は、考える。 はじめから、仲が良いとは言えない関係だった。 全く係わり合いが無いわけではない。 部活のチームメイトだし、話もそれなりにする。 しかし、特別に友人と呼べるかも分からない。 そんな、関係。 それでも、高校に入ってからは、部活以外でもたくさん話をしていたし、最近は、だいぶ仲良くなれたと思っていた。 最近は…。 そうだ、最近は、あんまり仁王が近くにいるから、自惚れていたのかも知れない。 彼の、特別な友人になった気でいた。 柳の頭の中で、仁王の言った言葉が繰り返し流れる。 『お前んこと嫌いじゃ』 何度も、何度も、何度も。 「何を泣いてるの?」 気がつけば、心配そうに顔を覗き込んでいる幸村と目が合った。 泣いている?誰が? …俺が? 指で頬を拭うと、生暖かい涙を触って、柳は驚いた。 どうして、泣いているんだろう。 「分からない」 本当のことだった。 「分からないの?ねえ、仁王と一緒にいたんだろ?仁王と何かあったの?」 幸村の問い掛けにも、柳は、頭を振ることしか出来ない。 「蓮二、話してよ。俺は、いつでも蓮二の味方だよ?」 「…仁王に、嫌いだと言われた」 思い出すと、また、理由も分からない涙が出てきた。 「嫌いだって言われたから、泣いてるの?」 「分からない。分からない、でも、涙が止まらない…」 心臓が、張り裂けそうに痛い。 なぜ? 元に戻るだけじゃないか。 それどころか、いつも通りかも知れないのに…。 「…っせい、いちっ」 「うん」 「悲しい…!苦しい…!心臓が痛いんだ…っ死んでしまいそうに痛いんだ…」 「蓮二…」 幸村が、柳の頭をゆっくりと撫でる。 子どもをあやす、母親のように。 「大丈夫、大丈夫だよ」 「…っう」 そのまま、柳は、泣き続けた。 理由は分からなかったし、知りたくもなかった。 「落ち着いた?」 幸村の問い掛けに、柳は頷く。 涙はすっかり枯れていたが、まだ、小刻みにしゃくりあげていた。 「…今日はもう帰りなよ」 「ん、」 「それで、家でゆっくりしな。考えても良いし、考えなくても良い。辛いなら、考えない方が良いよ。でも辛くても、考えたいなら、答えが出るまで考えな。中途半端は、俺が許さない」 「…ふっ…承知、した」 いかにも彼らしい励ましの言葉に、柳はやっと笑みを漏らした。 それを見て、幸村も優しく笑う。 「教室まで一緒に行くよ。鞄、取りに行くだろ」 「ああ、すまない。あ、精市」 先を歩きだした幸村を、柳が呼び止める。 「なに?」 「…ありがとう」 「当然でしょ!」 快活に笑う幸村につられるように、柳も笑った。 「じゃあね、気をつけて帰るんだよ」 「ふふ…精市は母親みたいだな」 「なんだよ、それー。だとしたら、お前たちのせいだよ!まったく、お前たちはさ、本当どうしようもないんだから」 「それは申し訳無いな」 柳がくすくすと笑う。 「ま、いいや。また明日」 「ああ、また明日」 小さくなっていく柳の姿を見ながら、幸村は「複雑だねえ」と呟いた。 ----キ---リ---ト---リ---- 柳さんは、友達のハードルが高い人だと思います。(勝手に) 柳さんにとっての仁王くんは、友達というより仲間です。 きっと、丸井くんやジャッカルも一緒だけど、彼らは「友達じゃん!」とか普通に言う。 でも、仁王くんは言わない。 友達だとは思ってないから。 …っていうのをここで説明しなきゃいけない文才の無さですみませんんんん…! [←] | [→] |