09 保健室 「ん、ぅ…」 白い。真っ白じゃ。 あ、天井か、と仁王が思い当たったところで、それはすぐに見えなくなった。 柳が、上から覗き込んで来たからだ。 「起きたか」 「…参謀!?…っつ」 「急に起き上がるな。意識を無くしていたんだから」 頭を抱えた仁王に、柳が言う。 「サッカーボールが頭に当たって、気を失っていたんだ」 「…何で、参謀がおるんじゃ」 今は、あまり会いたくなかったんに、と心の中で付け足す。 「お前たちの試合を見ていたからだ」 お前たちの…? 真田の、の間違いじゃろ。 「ここまで運んで来たんか?」 「いや、ここまでは弦一郎が…」 「真田…?」 「ボールを当てた張本人だからな。気にしていたぞ。今は、試合に戻っているが」 また、真田。 だめだ、と仁王は思った。 自分の中に、どす黒い感情が溜まっていくのが分かる。 やめてくれ…! 自分が、自分じゃなくなってしまう…。 「なるほどの。真田がおったから来たんか」 自分でも、驚くほど卑屈な声が出てきた。 「…仁王?」 柳が、驚いているのが分かる。 でも、もう止められない。 「参謀、真田が好きなんじゃろ?分かるぜよ。試合中、ずっと見とったもんな。分かりやすいんじゃ、お前さん」 「な、にを…。そんなこと」 「はっ…今更、隠さんでもええじゃろ。それとも…俺には言いたくないん?俺にばれんのが怖いんか!」 「仁王…っ」 柳の制止も効かない。 「そうじゃろうな!俺とお前と、仲良くも無いしな…!ただのチームメイトやしな!」 どす黒い感情が、塞きを切ったように溢れ出す。 「参謀…お前、俺んこと嫌いじゃろ?」 「そ、んな」 「…丁度ええ」 だめだ。 その先は、言ってはいけない。 「俺だって、お前んこと嫌いじゃ」 吐き捨てるように、言った。 柳は、何も言わない。 仁王も、何も言わない。 ただ、興奮した仁王の、はあはあという荒い息だけが聞こえる。 もう、おしまいじゃ。 何もかも…。 深い沈黙は、真っ白い空間の中に、重く腰を下ろして離れなかった。 「出てっとくれ…」 沈黙に耐え切れなくなったのは、仁王の方だった。 静かにそう言っても、柳は動かない。 出ていってくれないと、また、何を言ってしまうか分からない。 「…出てけ!」 大きく叫ぶと、柳の身体が、びくりと小さく震えた。 そして、何も言わずに、彼は出て行った。 仁王の望み通りに。 ドアの閉まる音が聞こえた瞬間、仁王は、毛布を頭から被って突っ伏した。 真っ白いベッドの中で漏らした嗚咽は、誰にも聞かれずに、宙に溶けた。 ----キ---リ---ト---リ---- 08と09は一本だったんですが、長かったんで分けました。 [←] | [→] |