綺麗はこわい | ナノ

08 校庭




気が付けば、球技大会である。

「…知らんかった」
「だろうな」
仁王の呟きに、丸井が投げやり気味に返す。
「お前がサボってる時に、メンバー決めたんだよ」
「ほうか」
「俺と一緒が良いと思って、そうしといてやったぜぃ」
「わー…嬉しい嬉しい」
「棒読みやめろ」

「でも、何でサッカーなんじゃ」
「え?何となく」
「だろうの」
仁王のため息は、校庭から聞こえてきた歓声に、掻き消された。

「うわっ、うっせ」
丸井が、顔をしかめる。
「なんじゃ…?」
二人で、校庭を覗き込む。
丁度、試合が終わったところだったようだ。

「あ、柳」
「な!?」
仁王は、思わず、フェンスにしがみつく。
そこには、汗を拭い、相手選手と握手を交わす柳の姿があった。
…あの相手、後でどうしてやろうかのぅ。
「柳のクラスが、負けたみてえだな」
仁王が、物騒なことを考えていると、横の丸井が言った。
「ほう」
「真田んとこに」
「…真田なんておったんか」
「柳のすぐ横にいたんですけど」
丸井が呆れて、言う。

「ってことは、俺らが戦うのは真田のクラスか」



「ほう、お前達か。容赦はせんぞ」
仁王と丸井を前にした、真田が言う。
単なる球技大会なんじゃけど…。
「…俺はやる気0じゃ」
「な!?仁王!たるんどるぞ!」
あー…うるさいうるさい。

「おい、仁王」
「なんじゃ」
「柳が見てるぜぃ」
言われて、すぐに指差された方に目を向けると、確かに、ギャラリーの中に柳の姿があった。
「頑張れよぃ」
丸井に肩を叩かれる。
…ちょっとだけやる気、出てきたかも知れん。

「何をこそこそと…」
「真田」
「む、何だ」
「負けんぜよ」



「仁王…!」
クラスメイトから、パスが回ってくる。
運動神経は、良い方だ。
ドリブルで、相手選手をかわしていく。
ゴールへの道が、見えた。
思いっきり、左足を振り抜く。
ボールは、大きく孤を描いて、ゴールネットに吸い込まれて行った。

「すっげー」
「ナイス仁王!」
「やるじゃねーか!」
次々に、クラスメイトが走ってきて、頭をばしばしと叩かれる。
痛い…。

柳は…?見てくれてたんか?
急いで、柳のいる方に、視線を走らせる。
その瞬間、仁王の心臓は大きく跳ね上がった。
柳は、こちらを見てはいなかった。
だけど、確かに、校庭を見ていた。
彼の、視線の先にいたのは…
真田…?

仁王は、昨日、柳が言った言葉を思い出す。
『…好きな人か…いるぞ』
仁王の頭を、嫌な予感と、結論が駆け巡る。
好きな人は…
真田…?


「仁王…!危ねえ…!」
「え…?…っ」
丸井の声が聞こえ、そのすぐ後で、頭に大きな衝撃を感じた。

参謀の好きなんは、真田…?

そこで、目の前が真っ暗になり、意識がぷつんと途切れた。



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