物語は終わった | ナノ





頭が痛くて目が覚めるのは、いつぶりだろう。
あれ?いつもより天井が高い、と思った。
そこで、がばっと起き上がる。
ベッドの上だった。
いつの間に寝たのか、まったく記憶にない。

「…う、気持ち悪…」
急に体を起こしたせいで、頭ががんがんと痛むと共に、喉元まで何かがせり上がってきた。
吐いてたまるか、と思い、なんとかそれを押し戻す。

今何時だ、と思ったが、つけていた腕時計はどこかにいっていて確認のしようがない。
携帯電話を見ようと思って、ベッドから這い出ようとしたところで、異変に気付いた。

裸だ。
何も着ていない。

まさか。
一瞬で血の気が引いた。

床を見てみると、昨日俺が着ていた服が散らかっている。
スラックスも、シャツも、下着もだ。
探していた腕時計もあるかも知れない。

呆然として、それから、働かない頭を必死に動かした。
とりあえず、服を着よう。
下着を履き、シャツやスラックスを着て、ネクタイを締めた。
ジャケットを羽織る。
皺になっているが、気にしていられない。
腕時計は無かった。
携帯電話も無い。
鞄も無い。

のろのろとした足取りで、ドアを開ける。
「お、起きたか」
跡部が、平然とした様子で、昨日飲んでいた部屋にいた。
ソファに座っている。
飲んでいるのは、野菜ジュースだろうか。

「これ飲んだら、起こしに行こうと思ってたんだよ」
「そうか…」
「大丈夫か?頭痛いだろ、相当飲んでたからな」
「ああ…」
「シャワー浴びるか?」
「大丈夫だ…」

あまりに普通の態度だった。
すると、あれか。
俺は酒を飲みすぎると、服を脱ぎ出す癖でもあるのか。
今までに一度も無いが。

「それにしても」
と跡部がくつくつと笑う。
「すごいんだな、お前。さすがの俺も腰が痛いぜ」
かあっと顔が赤くなるのが分かった。
それに気付いているのか、跡部はますます愉快げに笑う。
「あんあん叫んで、もっともっとって」
「な…っ」
ありえなくはない自分の痴態が浮かんで、更に頭が痛くなった。
抱え込みたいくらいだ。

「嘘だよ」
ひとしきり笑い終えたのか、いつもの表情に戻った跡部が言う。

ほっとした。
なんだ、嘘か。
良かった。

たちが悪いぞ、と睨もうとした俺の耳元で、跡部が囁く。
「嘘、お前、恥ずかしがって、全然喘がなかった」

ああ、頭が痛い。


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