社長の家にいたのは屋比久だけではなかった。 二階の応接室のドアのすぐ近くに、がたいの良い男二人が立っていた。 ドアを囲むように、右と左に。 右の男の方が小さい。 サングラスをかけているので、表情は分からない。 ドラマや映画でよく見るSPにも似ているが、あれは国の正義機関だそうだから、そっくりの格好の正反対のやつらに違いない。 屋比久はカーテンを開いた大きな窓のすぐ傍に立っていた。 ソファを勧められたが、断ってその横に立つ。 窓は曇り一つ無くぴかぴかで、目の前の通りが一望できた。 家の周りは似たような家やマンションばかりだ。 高級住宅街なのだ、ここは。 「良い天気だねえ」 屋比久が道路を見ながら言った。 太陽に熱せられた真っ黒いコンクリートはじりじりと熱そうだ。 街路樹の作る影もあまり役に立っていないに違いない。 「こんな良い天気なのに憂鬱だわ」 「音楽でも聴いたらどうだ」 「カブトムシ?」 「憂鬱な気分が吹っ飛ぶぞ」 「これが終わったら聴こうかしら」 「これ?」 俺の疑問には答えずに、屋比久は何かを待っているかのように、せわしなく道路を見つめている。 「水蜘蛛の顧客リストだけど」 「ああ、持ってきたぞ」 と俺は鞄の中を漁る。 「もう良いの、それ」 「は?」 「もう必要じゃなくなっちゃったのよね」 鞄から資料を出しかけた手が止まる。 屋比久の顔をじっと見る。 表情は読み取れない。 「犯人分かっちゃったから」 窓を綺麗にするように、屋比久はそこを手のひらで擦った。 「今からここに弟がやって来る」 まさにその瞬間、ドアが開いた。 その向こうにいる人物を見て、俺は心底驚いた。 「…跡部?」 どうしてお前がここにいる。 [←前へ] | [次へ→] |