物語は終わった | ナノ





屋比久と会うことが出来たのは、一日経ってからだった。
俺よりも前に会っておかなきゃいけない人が山ほどいたらしく、会った瞬間の屋比久は、この間よりもずっと老け込んだように見えた。

「それで、誰が殺したのか分かっているのか?」
「さあ、君じゃないの?」
「まさか」
「でしょうね」
と屋比久は興味無さげに言った。
「柳くんだったら、社長よりまず弟を殺すもんね」

「…弟はなんて?」
俺はそれには答えず、話を本筋に戻す。
「絶対に犯人を殺せってさ。可笑しいわよね、犯人って」
火曜サスペンスかよ、と屋比久はたいして面白くも無さそうに言った。

それから、俺に向き直る。
「でもどうやって殺されたかは分かった」
ごく、と唾を飲み込む音がした。
「毒だって」
「毒」
と俺も繰り返す。
「強力で、かつ体内に残るのは極微量」
屋比久の言い方は、まるで専門家のようだ。
多分それ専門の会社に依頼して調べさせたんだろう。
「水蜘蛛か」
「それ以外に考えられない。そんな毒を作れるところが他にあるのなら、うちはそっちと契約してる」

「毒は水蜘蛛のものだとして、殺したのも連中なのか?」
「あそことは揉めてたからね、そうだとしてもおかしくない。ただ、だとしたら社長よりも弟を殺すはずだと思うのよね。揉めてたのはそっちなんだし」
「両方ともやって潰すつもりなのかもな。社長を殺した方が、後がやりやすい」
「他のやつだとしても、水蜘蛛がそんなに強力な毒を売るんだから、相当信頼されているところじゃないと」
「常連は数が限られる。水蜘蛛はそんなに大きな会社ではないし」
「顧客リストを取ってこれる?」
「すぐには無理だ」
「どのくらい?」
「一週間」
屋比久はその答えを聞いて、わずかに眉根を寄せたが、それでもやがて頷いた。
それと同時に、疲れを一気に吐き出すかのように、大きく息を吐いた。
「じゃあ、それでお願い。こっちもこっちで犯人探ししておくから」

「見つかると思うか?」
「珍しく弟が動いてるから、見つからなくても、何人かは死ぬだろうね」
と屋比久は心底嫌そうな顔をした。
自分だって似たようなことをしているくせに。
「憂鬱だわ」
とまで言う。


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