柔らかいベッドだと思った。 柔らかすぎて、そのまま沈んでしまうような気がした。 柳、と跡部が俺の名前を呼んだ。 頑丈なベッドは、スプリングが軋まない。 男二人分の体重にも余裕で耐えうるのだ。 はあ、と息を吐いて。 次の瞬間、息が出来なくなって。 お互いがお互いを貪って、身体の隅々まで触って、触られて。 びくり、と震えた途端、意識が混濁としてくる。 どこにいるんだろう。 どこにいけばいいんだろう。 どこまでいけばいいんだろう。 そういう不確かな感覚で、頭とか身体とかが全部いっぱいになって、何も考えられなくなるのだ。 跡部、と名前を呼んだ。 眠っている跡部の顔をすぐ近くで眺めていた。 外はまだ暗い。 昨日はあのあと、酔った跡部を家に送って、一人で歩けないというから、ベッドまで運んだら、ベッドについた途端に組み敷かれた。 跡部は、にやり、と彼らしく笑った。 キスされて、服を剥かれた。 抵抗はしなかった。 嫌だとも思わなかった。 驚いた。 跡部が俺を求めたことにもそうだが、自分が跡部を求めていたことに驚いた。 十五歳の時に数度会って、それからはずっと会っていなかった。 存在すら忘れていた。 再会して二日と数時間。 俺は思ったよりも跡部に心を許している。 跡部が少し身じろいだ。 灰色とも茶色ともつかない不思議な色の髪が、ぱさりと額から流れる。 じっとその顔を見てしまう。 肌が白い。 睫毛が長い。 唇を人差し指で押してみる。 柔らかい。 面白くなって、ふにふにと何度も押す。 ふいに、その指を掴まれた。 「…っふ、なんだよ」 空を映した透明な海みたいな瞳が、俺を映している。 その目がゆっくりと細められ、映る俺もぐにゃりと歪んだ。 「起きていたのか」 「お前があんまりいじくるから起きたんだよ」 ふ、と笑って、掴まれた指を、口に含まれる。 「ん…」 指先を吸われ、舐められ、第二関節を軽く噛まれる。 「跡部…」 「足りなかったか?」 からかうようにそう言われて、身体が熱くなるのが分かった。 つ、と唾液が糸を引いて、跡部の口と俺の指とを繋ぐ。 あ、切れた、と思ったら、唇が重なる。 そのまま、また、ベッドが沈んだ。 頑丈なベッドは軋まない。 たとえ二人分の体重にも。 静かに静かに、飲み込んでいくだけだ。 [←前へ] | [次へ→] |