家に帰ってから、三日ぶりに携帯電話の電源を入れた。 「…っうわ」 ブー、といきなり携帯電話が鳴ったので驚いた。 電源を切っている間に送信されていたメールが、一斉に届いたのだ。 そして、その数を見て、俺はまた驚愕した。 メールは全て蓮二からのものだった。 一番古いものにさかのぼって読んでいく。 「母親のこと、黙っていてすまなかった」 「謝っても許されないだろうが、ちゃんと直接謝りたい」 「雅治、すまなかった」 「本当にごめん」 「電話に出てはくれないだろうか」 「話がしたい。明日時間は取れないだろうか」 「明日の午後二時、前に貝殻を拾ったところで待っている。話を聞く気になったら来て欲しい」 「来てくれるまでずっと待っている」 「本当にごめん」 「顔も見たくないだろうが、もう一度話がしたい。来てくれないだろうか」 「まだ待っている。気が向いたら来てくれ」 「すまなかった。何度でも謝るから、話を聞いてくれ」 「一度だけで良いから」 「お願いだから」 「明日も同じところで待っている。朝の十時まで待っている」 「話がしたい」 「ちゃんと謝りたい」 「今日も来ないだろうか」 「雅治、本当にすまなかった」 「もう会えないんだろうか」 「話を聞かなくても良い。会いたい」 「声が聞きたい」 「もうだめなのか。何もかも終わりなのか」 「もう一度だけ会いたい。謝りたい」 「雅治、本当にすまなかった」 「雅治、ごめん」 「ごめん」 「ごめん」 最後の方は、謝罪の言葉しかなかった。 俺は鼻の奥がつんと痛むのを感じて、気がつくと泣いていた。 冷たい海の傍で、何も無い砂浜で、蓮二はどんな想いで俺を待っていたんだろう。 帰ってこないメールをどんな想いで打っていたんだろう。 携帯電話の着信履歴、一番上に載っているその番号に掛け直す。 プルル、というコール音が響く。 一回、二回、三回、四回、と。 信じられないくらい長く感じた。 その音が鳴るたび、もう一生出てはもらえないような気さえした。 蓮二もこんな風に思ったんだろうか。 どれくらい待ったかは分からない。 でも、コール音が途中で切れる、プツンという音がした。 「…もしもし」 携帯電話を通した、少し機械的な蓮二の声は、震えていた。 「もしもし…、俺じゃ」 きっと俺の声も震えていた。 「…雅治」 大きな間があって、それから、蓮二が俺の名前を呼んだ。 「おん」 と俺は返事をする。 それだけのことで心が震えた。 「…っ雅治!ごめん、本当に…すまなかった…」 「…俺も…メールとか返してなくてすまん…。全部読んだ」 「ああ…」 蓮二が向こう側で、頷く気配がする。 「話、聞きたい」 「聞いてくれるのか」 「聞きたい。それに、俺も話したいこと、あるんじゃ。やから、帰ってきて」 「…すぐには無理だ」 「なんで」 思わず、語気が強くなる。 「十三回忌だから」 「ジュウサンカイキ?」 と俺は繰り返す。 「…母親の」 蓮二が言いにくそうに、言う。 「ああ…」 と俺は間の抜けた声を上げた。 「いつなら帰ってこれるん?」 「明後日の夜に」 「じゃあ、待っとる」 「いや…多分、夜遅くなると思うから、次の日で…」 「いや、待っとるよ。アパートの前で」 ずっと待っとるから、と言って、返事を聞かないうちに通話を切った。 [←前へ] | [次へ→] |