翌日は朝から雨が降っていた。 湿気のせいでぺたりと沈んでしまっている髪の毛にげんなりしてから、ベッドから起き上がる。 テレビをつけると、お昼の情報番組が始まったところだった。 適当な服に着替えて、テレビを消して、携帯電話と財布だけを持って部屋を出る。 洗面所で顔を洗って、歯を磨いて、また髪の毛の具合にげんなりして、それから家を出た。 母親も弟も出掛けているようで、玄関の前の傘立てにはビニール傘が三本刺さっているだけだった。 その中から一本を抜き出して差す。 ぱりぱりと音を立てて開いた傘は、骨の一本一本が微妙にずれていた。 雨は結構な強さで、傘を差していても蓮二の家に着くころには、だいぶ濡れてしまった。 ピンポン、とチャイムを押すと、すぐにタオルを持った蓮二が顔を出した。 「ひどい雨だな」 濡れただろう?とタオルが差し出される。 それを受け取って、玄関でわしゃわしゃと服や髪を拭く。 「風呂に入るか?」 「いんや、大丈夫」 「風邪引くぞ」 蓮二が眉間に皺を寄せる。 「それより腹減った」 「何も食べていないのか?」 「さっき起きてすぐ来たけえ」 「そうか」 蓮二は困ったように笑う。 しょうがないな、と困ったように。 蓮二はすぐにご飯を用意してくれた。 自分はもう食べたようで、部屋の真ん中のローテーブルに載せられたのは、一人分の肉うどんだった。 昨日家に帰ってから、麺類が食べたい、とリクエストしたからだろう。 肉うどんは前にも一度作ってくれたことがある。 ずるずるとうどんを啜る俺の横で、蓮二は熱そうなお茶を飲んでいる。 ちなみに俺の前にあるのは冷たいウーロン茶だ。 「雨の日って憂鬱じゃ」 俺はおもむろに切り出す。 「身体がぐだーっとなる」 「ああ。少し分かる気がするな」 蓮二が二杯目のお茶を注意深く注ぐ。「でも」 「俺が生まれたのは雨の日で」 「知っとうよ」 六月四日、覚えている。 「だからかは分からないが、何となく雨に好感を持ってはいる」 「ふうん」 「音も匂いも割かし好きだ。それに雅治の家に初めて行った時も雨だったしな」 ぽつりと思い出したように蓮二は呟く。 それを言われちゃおしまいだ。 俺はむず痒いような気分になって、それを誤魔化すようにどんぶりを傾けてつゆを飲み干す。 [←前へ] | [次へ→] |