昼休みは、蓮二と一緒に屋上にいることがほとんどになった。 「よう晴れとるのう」 この時期の屋上は気温も陽射しも丁度良くて居心地が良い。 「でももうすぐ梅雨だろう?」 蓮二は自分で持ってきた弁当を食べていて、俺は購買で買ったパンだ。 何も食べないでいると、蓮二が、健康に悪いと言って、毎回自分の弁当を分けてくれようとするので(それはそれで嬉しいけど)俺はちゃんと昼飯を用意するようになった。 しかも朝のうちに。 そうすれば、蓮二と一緒にいる時間が増えるからだ。 二人っきりの屋上。 しかも、屋上には内側から鍵もかけられるという絶好のシチュエーションで。 蓮二は教室にいる時よりもくつろいでいて、それは二人で部屋にいる時の彼と似ているから、俺はそれだけでこう、ムラムラしてしまう。 でも、蓮二は授業をサボることは絶対に許さなかったから、二人でいられるのが嬉しい反面、俺は今すぐ押し倒して色々してやりたい衝動を押さえ込むのが大変だった。 今だって、蓮二は唇についたケチャップを何食わぬ顔して、ぺロ、と舐めたけど。 いつだって限界ギリギリの俺には、何てことしとんじゃもう!という気分になるわけだ。 「なあ」 「ん?…っあ」 こっちを向いた蓮二のネクタイを思いっきり引っ張る。 体勢を崩した蓮二を支えて、唇を合わせようとしたところで、見計らったように昼休み終了五分前のチャイムが鳴った。 「…雅治」 たしなめるような蓮二の声が響く。 「ハイハイ」 と返事をして、軽くちゅ、と口付ける。 こんなんじゃ足りない。 全然足りない。 明らかに不機嫌な俺に、蓮二は困ったように笑っている。 「今日」 「あ?」 「うち来るか?」 と言って、いつの間にか弁当を片付けた蓮二は立ち上がる。 それに遅れないように、俺も急いで立ち上がり、手の中の空になったジュースのパックをぐしゃりと潰す。 「行く」 と答えれば、ふふ、と笑われて。 それだけで機嫌が良くなってしまうんだから、俺は、なんて簡単なやつだと思われているに違いない。 蓮二の部屋に着くと、すぐにその身体をぎゅうっと抱きしめた。 蓮二の身体は、毎回抱きしめるたびにびっくりするぐらい細くて、そのまま壊れてしまわないかと心配になってしまう。 何度も何度も唇を重ねて、そのまま服の中に手をつっこむと、蓮二が身を捩じらせた。 「雅治…っ」 「なんじゃ」 「ベッドに…」 「嫌じゃ、待てん」 蓮二の制止も無視して、そのまま好き勝手いじくりまわす。 そのうち蓮二の抗議の声も止んで、なされるがままになった。 何をしていても、どうしても足りないような気分だった。 俺は蓮二が好きで、蓮二も俺が好きで、すごく満たされているはずなのに、どこかで足りない足りないと叫ぶ俺もいるのだ。 これも一種のセンチメンタル病だろうか、と俺は熱に浮かされた頭で考えた。 「なあ…」 横で寝転がっている蓮二の髪を梳く。 サラ、と水のように流れていくのが、心地よくてたまらない。 「なんだ?」 こっちに目線だけを寄こして、蓮二は微笑む。 「いなくなったりせんよな」 「なぜ?」 「分からん。…でも、蓮二はふらっとここに来たじゃろ。やから、おんなじようにいきなりどっかに行っちゃうような気がしてならん」 「別にふらっと来たわけじゃない」 「じゃ、なんでこんなとこ来たん?」 「なんで…。なんでだろうな」 「なんじゃあ、それ」 俺が呆れたように笑うと、蓮二も声を立てて笑う。 それなのに、瞳だけが不安定に揺れていた。 「もう遅いから帰った方が良い」 「んー、じゃな」 と俺は大きく伸びをする。 身体がミシ、だか、メキ、だか軋む音を立てた。 ベッドから起き上がって、ぐしゃぐしゃになった制服を再び着る。 「明日も来てええ?」 明日は土曜日だ。 「もちろん。いつ来る?」 「あー…昼くらい?起きたら行く」 「分かった。何か食べるものを用意しておこう。何が良い?」 「なんでも」 「それは逆に困るぞ」 頭を軽く小突かれる。 考えとく、と返事をして、蓮二の部屋を後にした。 [←前へ] | [次へ→] |