海が見える町 | ナノ





電気も点けずに、暗い部屋のベッドの上で、俺たちは裸のまま毛布にくるまっていた。
風呂場で散々抱き合って、バスタオル一枚ずつで部屋になだれ込んで、そのまま、また、今度はベッドで抱き合った。
さすがに疲れて眠い。
それでも、なんだか眠るのがもったいなくて、ぽつぽつと会話を交わしている。

雨はまだ止まない。
窓を叩く激しい音が聞こえる。

「俺もアラバスタ終わったら買うんやめようと思っとった」
「でもやめなかった?」
「なんとなく買い続けた」
「結果的には正しかったな」
「いんや、まだ分からん。最後の最後を見るまでは、答えは出せん」
そうだな、と蓮二が笑う。

脚を絡めて、身体をぴったりとくっつけて。
頬に触れると、くすぐったそうに身をよじる。
その全てが俺のものなんだ、と思うと、信じられないくらいに幸福だった。

「のう、蓮二の家族ってどうしとるん?心配してないん?こんなところに一人でいて」
わずかに声が真剣になっていたかもしれない。
やや間が出来る。
「両親はいないんだ」
「いない?」
「死んでいる」
「一緒じゃ」
「一緒?」
思わず零れた言葉に、蓮二が小首を傾げる。
「俺の父親も死んどる」
「そうか…」
と顔を歪めた。

「不幸じゃない?」
蓮二は真剣そのものの表情で言った。
悲しい、でも、寂しい、でもなく、不幸じゃないかと。
「父親がおらんで?」
こくん、と蓮二は頷く。
「不幸じゃない」
はっきりと答えた。
「…蓮二がおるけえ」
と付足すと、満足そうに蓮二は口角を上げる。

「なあ」
「ん?」
「なんで死んだん?」
「雅治のお父さんは?」
質問に質問で返される。
「病気じゃ」
と俺はつき慣れた嘘をつく。
「じゃあ、俺の両親も病気だ」
ふふ、と愉快げに笑う。
「なんじゃ、それ」

「な、兄弟とかは?」
「どうだと思う?」
当ててみろ、と言われ、うーん、と考える。
「んじゃ、いる。姉ちゃんか妹」
「どうして女限定なんだ」
「そりゃもう、絶世の美女を想像しとるけえ」
「だったらどうする」
「そうなん?」
「嬉しそうだな。だが残念、一人っ子だ」
「ほーう」
「絶世の美女に会う機会を失って悲しいか?」
「なんじゃあ、不機嫌そうな顔して、妬いとるん?安心してええよ。蓮二意外興味ないけ。たとえ蓮二にそーっくりの美人でもな」
ふざけて言ったつもりなのに、挑発的な微笑みをたたえた蓮二が、「そりゃあ雅治くんはモテますから」と言ったものだから、俺は枕に顔を埋めるはめになってしまった。
バタンキュー、だ。


いつまでもそうしているわけにもいかないので、のろのろとベッドから起き上がり、服を着た。
蓮二の制服はびしょびしょになってしまっているから、俺の服を貸した。
泊まってったらええのに、と言えば、また今度、と言われてしまった。
ビニールの傘を貸し、玄関の前の坂道まで見送った。
その背中が見えなくなるまで見ていようと思ったら、坂の一番下のところで、蓮二はこっちを振り返って、小さく手を振ってくれた。


母親と弟が帰ってきたのは、十一時過ぎだった。
眠っている弟を抱きかかえていた母親は、傘を持っていたはずなのにずぶ濡れだった。
そして、驚くほど暗い顔をして、リビングに入ってきた。
俺はソファに寝転がって、うとうとしながらくだらないバラエティ番組を見ていた。

「おかえりー…ってどうしたん」
「ただいま、雨すごくって。あんた濡れなかった?」
「めちゃんこ濡れたけん、風呂入って着替えた」
「そう」
頷くと、母親は隣の寝室に消えていった。

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