浴槽に、波が立つ。 柳、と名前を呼んだ。 すると、それに答えるかのように、熱い息が返ってきた。 重たげな睫毛に縁取られた瞼が持ち上がり、琥珀色の色彩が惜しげもなくさらされる。 その瞳に映る俺は、ひどく必死な、欲情を孕んだ目をしている。 柳、柳、と貪るように口付ける。 身体中のありとあらゆるところに口付ける。 雫の滴る髪の先へ、俺の頬に触れる指の腹へ。 仁王、と名前を呼ぶ唇へ。 何度も何度も、飽きることなく口付けた。 その白い肌に触れ、腕を回し、三日月形の傷口に爪を立てる。 柳の顔が歪む。 痛いか、と聞くと、痛くない、と掠れた声で返される。 ぎゅっと強く抱きしめる。 白く細い身体は、明日には俺の前から消えてしまうんじゃないかと思えてならなかった。 だから、強く、痛いくらいに抱きしめる。 蓮二、と繰り返し呼ぶ。 蓮二、蓮二。 雅治、と蓮二が呼ぶ。 消え入りそうな、小さな声で。 俺たちが動くたびに、波が立つ。 段々激しく、大きく、波が立つ。 波が立つ。 波が立つ。 波が立つ。 海みたいだ。 [←前へ] | [次へ→] |