がら、と教室のドアを開けた。 今日は遅刻じゃない。 「おはよう。今日は間に合ったんだな」 既に教室にいた柳が俺に気付いて、言った。 うん、と俺が頷くより早く、こちらに背を向けて柳と話していたらしい幸村が、振り返って不満げな声を上げた。 「ちょっと聞いたよ。昨日、蓮二んちに行ったんだって?」 「行った、けど」 「なんで俺の許可無く行ってんだよ!」 「必要なかろ」 と俺は顔をしかめる。 なんで柳の家に行くのに、お前の許可が必要なんだ。 という疑問も、幸村には通用しない。 「あー、悔しい。仁王に先越されるなんて」 とわざとらしく嘆いている。 遊びに行く時は仮病使ってあげようか?と言っていたのは、どこの誰だ。 「来たければいつでも来れば良い」 「本当!?」 柳の言葉に、幸村は顔をほころばせた。 「じゃ、今日!」 「今日は部活あるじゃろ」 「そんなん休みだよ、休み。緊急休暇だよ。あ、真田ー!」 「ど、どうした、幸村」 教室に入ってきたばかりの真田は、あまりに上機嫌の幸村に、明らかにうろたえている。 「今日、部活休みだから」 「は!?な、なぜだ!?」 「蓮二の引越し祝いパーティーだよ」 けろっと言い放つ幸村に、真田は、わけがわからない、という顔をしている。 「はい、真田は隣のクラスのやつらに召集かけてきて」 「幸村、全く意味が分からないのだが…」 「ほら、早くする!」 ぴしゃり、と言われて、真田は泣きそうな顔をしながら、教室を出て行った。 幸村は鼻歌を歌いながらメールを打っている。 丸井辺りに送っているんだろう。 「…ええの?」 「ん?」 横の席に座っている柳に言うと、きょとんとした顔をされた。 「大人数で。あいつら、絶対、騒ぐぜよ」 「ああ」 と柳が納得したような顔をする。 そして、「大歓迎だ」と満面の笑みで言われてしまったものだから、俺は反対する気が全く無くなってしまったのだった。 放課後、幸村指定の待ち合わせ場所の校門には、既に他のメンバーが揃っていて、なぜか赤也までいた。 「なんで赤也がいんの?三年しか呼んでないのに」 分かっているくせに、幸村はわざとらしく、なんで?なんで?と問いたてている。 「ていうかなんで俺呼んでくれなかったんスか!」 「え、むしろなんで赤也を呼ばなきゃいけないわけ?」 「ひっでー…!仲間外れ反対!」 と赤也がわめく。 幸村はそれを見て、心底面白そうにしている。 「まあ俺は蓮二が良いって言えば、良いけどね」 幸村がこれ見よがしに、柳を振り返る。 「い、良いっスか…?」 「もちろんだ」 「おい、何赤面しとんじゃ、このワカメ」 「ワカメじゃないっス!」 髪をぐしゃぐしゃとかき回してからかうと、面白いぐらいに赤くなって、赤也は逃げるように先を歩く丸井とジャッカルの元に走っていった。 結局、その日は柳のアパートで夜遅くまで騒いだ。 小さなスーパーで菓子とジュースを大量に買い込み、それらを食べながら、罰ゲームつきのウノをやった。 ウノは、幸村がすぐ隣の自分の家から持ってきた。 真田と赤也は壊滅的に弱くて、それぞれ三回くらい罰ゲームをくらっていた。 罰ゲームは、幸村が柳の家の食材で作った激マズドリンクを飲む、とか、303号室の住人に恋人の有無を尋ねてくる、とか、携帯電話の電話帳50番の人に電話をかける、とかくだらないものばかりだった。 柳はかなり強くて、幸村とともに一度も罰ゲームに当たらなかった。 赤也が、三回目の罰ゲーム、「町をまわって、木曜日の今日、少年ジャンプがまだ売っているところを探し出して買ってくる」から一時間ぐらいたって帰ってきたところで、ようやく解散となった。 家に帰ると、母親が、土曜に休日出勤になったと嘆いていて、弟が、にんじんが食べれたと報告してきた。 昨日と同じようにベッドに横になると、ポケットで携帯電話が振動した。 柳からのメールで、【ワンピースが面白かった。アラバスタ編までしか読まなかったのは誤算だったようだ】と書いてあった。 俺は、なんて返事をしようか三十分くらい悩んでから、やっと送信ボタンを押したのだった。 [←前へ] | [次へ→] |