・恋にデータは無効 「赤…也…?」 まずい、と思った。 頭の中で、危険信号が引っ切りなしに点滅している。 背中は冷たい床の上に投げ出され、その上で馬乗りになった赤也は切なげな目をしている。 一体どうしてこうなってしまったのか。 さっきまで、俺はデータの整理のため机に向かっていて、赤也はその横で雑誌を読んでいたはずだったのに。 「ねえー、柳さん?」 「なんだ?」 「これとこれだったら、どっちが良いと思います?」 と赤也は雑誌を指差した。 「どっちでも良いんじゃないか?赤也は恰好良いから、どちらも似合いそうだ」 と答える。 雑誌を見なかったので、適当なのだが。 まあ、赤也は実際恰好良いので、あながち嘘でもない。 それに、こういう時の赤也は、答えを求めているのではなくただ喋りたいだけだから、中身は適当でも良いのだ。 「赤也…?」 会話が返って来なかったので、どうしたのかとノートから顔を上げると、そこには、少し驚いたような顔をした赤也がいた。 「…っえ、あ、あー…そっスか?」 歯切れが悪いな、と思いながらも、「そうだ」と返した。 また、ノートに顔を戻す。 「じゃあ…」 と赤也が少しだけ近づいたのが分かかった。 椅子が床を擦って、ギ、と小さな音を立てた。 「だったら…柳さんは可愛いっスね」 「なんだそれは」 「そのまんまの意味ですよ」 「男に可愛いも何もないだろう」 「だって、本当に可愛いんスもん。…色々と」 最後の部分だけやけに小さい声だったが、その『色々』にどういったものが含まれているかは、十分に理解出来た。 「あんな姿、見せるのはお前だけだ」 そう言った途端、世界がぐらりと大きく揺れた。 椅子が大きな音を立てて倒れる。 背中が冷たい床に当たる。 切なげな目をした赤也と、目が合う。 赤也に押し倒されたのだ。 「…あんたが悪いんスよ」 混乱した頭に飛び込んできたのは、赤也の責任転嫁のような言葉だった。 赤也の顔が近づく。 その顔に、さっきまで俺に意見を求めていた無邪気な後輩のかげは無い。 焦点が合わない程の距離で、赤也が呟く。 「あんたが煽るのがいけない」 そして、ゆっくりと合わさった唇に、確かな温もりを感じながら、どこが彼を煽ったんだろうと考えるが、答えは出ないままだった。 データの斜め上をいく赤也であってほしい。 うっかりタイトルが恥ずかしい [←] | [→] |