・少年タイムスリップ 「柳さんは、タイムスリップってあると思いますか?」 俺がそう聞くと、彼は眉間にシワを寄せて「非、科学的だな」と言った。 「それはつまり無いってこと?」 「そうだな」 「なんだあ、残念」 と俺は大袈裟に驚いてみせる。 「なんだ?赤也はタイムスリップがしたいのか?」 「そーっスよ」 そう。 俺はタイムスリップがしたいのだ。 「なぜ?」 と柳さんが聞く。 「言いたいことがあるんスよ」 と俺は答える。 「誰に?」 「そりゃアンタに。あ、違うや、一年前の柳さんに、だ」 柳さんはますます眉間のシワを深めた。 意味が分からない、と思っているんだろう。 「俺、怒ってんスよ」 怒ってる、という単語に、柳さんの瞳の色が僅かに不安に揺れたのが分かった。 だから、なるべく優しい声で、言ってやる。 「なんで先に言っちゃったんスか」 しかし、柳さんは、まだ意味が分からないという顔をしていたので、俺は更に詳しく言うことにした。 「なんで先に好きって言ったのかってことっスよ。俺が先に言いたかったのに!」 「………は…?」 「だーかーら!俺が先に告白したかったのに、なんで先に言っちゃったんスか!てゆーか、かっこつかないじゃんか!告白したのがアンタの方、なんて!」 言い終わるやいなや、何が面白いのか、柳さんは大きく吹き出した。 「ちょ…!何笑ってんスか!」 「いや、す、すまない…っ」 謝りながらも、その肩はまだ小さく震えている。 「はあ……っあ、いや…!別に馬鹿にしたわけではなくて…っ」 ムッとした俺にようやく気がついたのか、今度は慌ててそう言ってきた。 「どーせ…っ俺は細かいこと気にしてるちっせー男ですよ!」 分かりやすくふて腐れた俺に向かって、柳さんが困ったような笑みを浮かべる。 「違うんだ、赤也。ただ…安心しただけなんだ」 「…本当っスか?」 「もちろん。それに…なんだか嬉しい…」 嬉しい…? 今度は、俺が、意味が分からない、という顔をする番だった。 「赤也がそんな風に思っていてくれたなんて、すごく嬉しい」 と言って、本当に嬉しそうに笑うから、俺はちょっと拗ねてたのなんてどうでもよくなって、その薄い身体を思いっきし抱きしめる。 「…柳さん…俺、一年前のアンタにもう一個言いたいことがあったんスよ」 「ん、なんだ?」 肩に顔を埋めた柳さんの声は、くぐもって聞こえた。 「俺のこと、好きって言ってくれてありがとうって。俺のこと、好きになってくれて、ありがとうって」 「…そうか…」 「うん。あと、一年後はきっともっと幸せですよって」 「そう、だな。…一年前より、俺はずっと幸せだ」 そう言った柳さんの声は、若干震えていた。 俺の方も、今にも泣きそうなくらい幸せだったけど、泣いたらかっこがつかないのでぐっと堪えた。 「来年は、もっともっと幸せにしますから」 俺がそう言うと、ついに耳元で小さな嗚咽が聞こえた。 柳さん、俺のこと好きになってくれて、本当にありがとう。 タイムスリップは出来ないけど、今の柳さんに直接言えたから、結果オーライだと思う。 そして、これからもどうぞよろしく。 電波少年赤也! 付き合って一年目とか 赤也はきっと記念日とか大事にしてくれるはず! 良かったね!柳さん! [←] | [→] |