バイバイ、黄色いチューリップ | ナノ

06 クレオメ




ガラスの窓越しに、校庭からかけ声が聞こえてくる。
いち、にー、いち、にー、とかそういうやつ。
廊下から聞こえては遠ざかっていくのは、女子の甲高い喋り声。
たまに、誰かを呼び出す校内放送も聞こえた。
それら、放課後の学校に相応しい音とは異なった音が、この保健室には響いていた。


クレオメ
(秘密のひととき)


「…ぅ、…っん」
俺の口から出るのは、熱を含んだ声。
「ん…は…」
柳からも、時々、くぐもった声が漏れ出していた。
それから、びちゃびちゃという、俺の先走りと柳の唾液の混ざる音。
ぐちゃぐちゃという、柳が俺の陰茎を舐める音。
じゅぷじゅぷという、口から出したり入れたりする音。

柳は、俺のものを根元まで銜え込んでいた。
出し入れするたびに喉の奥に亀頭が当たって、俺は気持ち良いけど、柳はそれが苦しいのか、目には涙の膜が張っていた。
そんなに苦しいなら、根元まで銜えなきゃ良いじゃねえか、と思ったけど、それを言う余裕が俺には無かった。

柳の口の中は、熱でもあるんじゃないかってくらい熱かった。
フェラは、初めてされるわけじゃなかったけど、柳はやっぱりうまいんだと思う。
俺が柳を好きだということを除いても、全体を丁寧に舐められ、銜え込まれ、繊細な指で根元を扱かれたら、イキそうになった。
だから、俺は必死に我慢している。
だって、なるべく長く、柳とこうしていたかったから。
この時間が続くわけでもないし、この行為だって、柳の気まぐれでしかないけど。

柳は、舐めている最中には、時々、うかがうように俺に視線を送ってきていた。
その表情は、もう何度も見てきた、何とも思っていない、と思っているようなあの表情だった。
でも、今はその表情も見えない。
銜え込んでからの柳は、顔を完全に陰茎の方に集中させているようだった。

「…っん…っはあ」
俺の息が荒くなる。
それを見計らってか、柳は、出し入れを激しくした。
「はあっ、はっ、…ん」
「…ん、…んぅ…ん」
「はあ…っ、んっ……くっ」
息が詰まるのが分かった。
内腿と陰茎が細かく痙攣し、俺は、柳の口の中に白濁を吐き出した。

「んぐっ…ん」
柳の喉が上下するのを、俺はぼうっとした頭で見ていた。
「…って、わりい…!」
ワンテンポ遅れて、状況を理解した俺は、慌てて謝る。
つーか、もしかしなくとも、今飲んだよな!?

「…初めて飲んだ」
そう言った柳は、俺よりも驚いているように見えた。
自分で飲んだくせに。
「苦い…」
と柳は顔をしかめた。
「じゃあ、飲むなよ。…てか、飲んだこと無かったのかよ…」
「うっかり飲んでしまったんだ」
「あそ」
二番目の質問には、どうやら答える気は無いらしいので、俺もそれ以上は聞かなかった。


「…そういえば、面倒なやつとは、こういうことしないんじゃなかったっけ?」
思い出したように、俺は言う。

「…お前は…どうせ、本気じゃない…から」
柳のその言葉に、俺は憤慨する。

「俺は本気だぞ」
「本気じゃない」
「本気だ!」
「本気じゃない!」
柳が叫んだ。
俺の叫び声に触発されたのか、柳がこんなに大声を出すのを初めて聞いた俺は、一瞬怯んでしまった。

「…本気で人を好きになったことも無いくせに」
と柳は言った。
独り言みたいに、小さな声で。
その顔が、今にも泣きそうに歪んでいたから、俺は何も言い返せなかった。



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