バイバイ、黄色いチューリップ | ナノ

05 あんず




柳とは、あれからも普通に話せた。
普通にしようと思えば、意外とそう出来るものだ。
今までの俺だったら、無理だったかもしれないが、柳とのことで多少の耐性がついたのかもしれない。


それでも、柳を見ると、柳と話すと、あの時のことが鮮明に思い出された。
はだけたシャツの間から見える白い肌。
若干、荒くなった息。
実際には、俺の妄想による修正が入っているけど。
しかし、薄れゆく本物の光景よりも、俺が頭の中で考え出した柳のエロい姿の方が、ずっとずっと色濃くなっていく。
それが、俺の頭を悩ませていた。


あんず
(誘惑)


「やばい、非常にやばい」
「何がっすか?」
「ぎゃーっ!」
「ぎゃーって…失礼っすよ。あ、お腹空いてんすか?」
「あのな、俺がいつでも腹減ってると思うなよ」
頭を抱え込んでいた俺に、後輩の赤也が声をかけてきた。
「じゃ、どうしたんすか」

あー、こいつは良いよな、と赤也の顔をまじまじと見る。
悩みとかなさそうで。
あってもあれだろ?
ゲームのラスボス倒せないとか、英語の宿題やってないとかその程度だろ?

俺なんて、好きなやつが他のやつとヤッてる(多分だけど)とこ見たんだぞ。
しかも、同性と。
しかも、学校で。
あれだ。
俺がゲームの主人公なら、柳はラスボスに違いない。
しかも、攻略不可能。


「…良いよな、馬鹿なやつって」
「喧嘩売ってんすか」
「はあ」
と俺は赤也の言葉を無視してため息を吐く。

「本当どうしたんですか…あ、柳さーん」
柳、という単語に、俺の心臓は大きく跳ねた。
赤也に手招きされた柳が、こちらにやってくる。
つーか、なんで来んだよ!

「どうかしたのか?」
柳が、赤也に笑いかける。
こう、作り物みたいな笑顔。

柳を好きになってから気づいたことだけど、柳はよくこういう笑顔を人に向ける。
意識的にやっているのか、それとも無意識なのかは分からないけど、ロボットみたいなその笑顔が、俺はかなり嫌いだ。
壁を作るように、貼り付けたようなその笑顔は、見ていて気持ちが悪い。

でも、きっとみんなは気づいてない。
気付いてなければいいな、とも思っていた。
俺だけが知っていればいい。


「なんかー、丸井先輩が変なんすよ」
赤也が、嬉しそうな顔で話す。
こいつは、柳のことが大好きだからな。
話すだけでも嬉しいんだろうな。
壁作られてるとも知らずに、可哀想なやつ。

「変?……ああ、そういえば、昼休みに気分が悪いと言っていたな。まだ治っていなかったんじゃないか?」
「…は?」
何言ってんだ、こいつ。
そんなの、柳の口から出まかせだ。
昼休みにそんなことを言った覚えは無い。
というか、柳とは会ってすらいない。

でも、赤也はその嘘を信じたようで、心配そうに俺の顔を覗き込んできた。
「え、まじすかー。なーんだ、それなら早く言ってくださいよ。大丈夫っすか?」
「あ、うん、だい…」
「大丈夫じゃなさそうだな。俺が保健室に連れて行こう」
「は!?」
柳が、俺の言葉を勝手に遮る。

そして、コートで大声で叫んでいる真田に向かって、一声かけた。
「弦一郎、丸井が体調が悪いようなので、保健室に連れて行く」
「うむ、大丈夫か?」
「ああ。精市にも言っておいてくれ」
と試合中の幸村君の方へ目を向けた。

「行くぞ」
「いってらっしゃーい。丸井先輩、お大事にっ」
問答無用ってやつだろうか。
珍しく見開かれた柳に睨まれたので、大人しく従っておくことにした。
あれ、俺なんか悪いことしたっけな。



保健室には、誰もいなかった。
ドアの前に掛けてあった『出張中』の札を無視して中へ入った柳について、俺も中に入る。
ドアを後ろ手で閉める。
そして、閉まると同時に、俺は柳を睨みつけた。

「何なんだよ」
「…お前こそ何なんだ」
「はあ?」
柳の言葉に、顔をしかめる。

だけど、次に言われた一言に、俺は固まった。

「いやらしい目で見ないでくれないか?集中出来ないんだ」
「…っは、はああ!?」

「見てねえよ!じ、自意識過剰じゃねえの!?」
「…動揺している確立100%だが」
そう言ってから、柳はにやりと笑う。

「やっぱり、あの時見ていたのは、お前だったんだな」
「は…っお前、気づいて…!」
「お前は覗きが趣味なのか?」
「んなわけねえだろい!つーか、お前こそ、あんなとこでヤッてんじゃねえよ!」
「別に場所なんて、どこだって良いだろう。…そうだな、例えば、保健室など丁度良さそうだな」
「…は?」
間抜けな声を上げた俺に向かって、柳は妖しく微笑んだ。

「そんなに気になるのなら、お前にもしてやろうか?」

もし、俺がゲームの主人公の勇者だとしたら。
ラスボスなんかじゃねえ。
柳は、あれだ。
勇者を誘惑してくる悪い魔女。
そして、俺は、きっととても誘惑に弱い、ダメな勇者に違いない。



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