バイバイ、黄色いチューリップ | ナノ

02 リナリア




四日前。

昼休み、いつものように裏庭に行くと、いつもとは違い先客がいた。
柳だった。

柳がここにいるなんて珍しいと思って、声をかけようとした。
でも、すぐに止めた。
柳の向こう側に、女が見えたからだ。
また嫌な場面に会ってしまったと思った。
胸の辺りが、ちくっと痛んだ様な気がした。


リナリア
(私の恋を知ってください)


その場面は、どう考えても告白の場面だった。
きっと、女の方が告白しているんだろうな、と思った。
そうであってほしい、とも思ったし、そうに違いないとも思った。
二人の会話を聞こうとするが、俺のいるところでは聞こえなかった。
かといって、動こうと思っても、身体は言うことを聞かなかった。


「…盗み聞きか?」
気づくと、後ろから柳に声をかけられていた。
言葉とは違い、その声には少しも批判は込められていないように聞こえた。

「悪いかよ」
内心では焦りつつも、何でも無いようなフリをする。
「いや、悪くない」
「だろい?」
「お前は、いつでも自信満々だな」
からかうようにそう言われても、言い返す気にはなれなかった。

「…告白されてたのかよ」
「そうだな」
「断った…?」
「いや?断らなかった」
「はあ!?」
俺は、大声を上げた。

「こないだと、言ってること違うじゃねえか!女とは、付き合わないんじゃねえのかよ!」
俺の言葉に、柳は首を傾げた。
「女と付き合わない、とは言っていない。本気のやつと、しつこいやつと、割り切れないやつとは付き合わない、と言ったんだ。女はそういうやつが多い、とは言ったが、全部の女がそうだとは言っていない。そうじゃない女とは、付き合うよ」
俺は、裏切られたような気分になる。

「…じゃあ…今付き合ってるやつはどうすんだよ…」
答えは分かっていたけど、聞かずにはいられなかった。
「一緒に付き合うよ。何人いたって、変わらないだろう?彼女もそれで了解していたし」
ほら、やっぱり、聞かなきゃ良かった。

「それは、付き合ってるとは言わねえんだよ」
「だろうな。でも、あいにく、それ以外に丁度良い言葉が思い浮かばないんだ」
「俺さ、お前の考え方、すげえ嫌い」
「好きだと言われたら、お前の神経を疑う」

何を言ったって、柳の心に響かないことは分かっていた。
むかつく、すげえむかつく。
何がむかつくって、意味不明なのがむかつく。

柳のことを、今すぐ殴りたかった。
同時に、抱きしめて、キスしてもやりたかった。
な?意味不明だろい?

「俺、お前のこと、嫌いだ」
理由は、分かってるようで、分からない。
柳は何も答えなかった。


七日前。

柳が、告白されていた。
視聴覚室に忘れ物をしてしまった俺は、そこでちょうど行われていたその場面に遭遇してしまったのだ。

告白だけだったら、「へえ」って感じだ。
俺だって、それなりにされるし、別に驚きもしない。
でも、そのときの俺は結構驚いた。
相手が男だったから。
しかも、俺がそのことに驚いている間に、柳とその男はキスをしたのだ。
驚き、倍増。

固まっていた俺だったが、次の瞬間、覚醒した。
深いキスを交わす柳と、目が合ったからだ。
しかも、柳は、にやりと笑った。
その顔が、信じられないくらい色っぽくて、俺は食い入るように見つめた。
柳は、俺と見つめあったまま、キスを続けていた。
俺にとっては、中々、衝撃的な場面だった。

いつの間にか、キスは終わっていて、相手の男が柳に何か言って、こちらに向かってきた。
俺は、慌てて物陰に隠れる。
男は、気づかずに行ってしまったようだ。
そろそろと、物陰から出ると、いつの間に来たのか、目の前に柳がいた。

「や、あのさ…別に男が好きでもいいんじゃねえの?つーか、誰にも言わねえし!」
なぜか、俺のほうが言い訳しているみたいな気分になった。
でも、俺のその反応を見て、何が面白いのか柳は笑った。

「別に、俺は男が好きなわけではない」
「へ?でも…さっき、キス、して」
「好きだ、と言われて、キスがしたいと言うからしただけだ」

俺の頭は混乱する。
は?意味わかんねえ。
こいつ、何言ってんの?

「…じゃ、今のやつは、断ったのか?」
そんな雰囲気では無かったけど。
「いや、付き合うことになった」
「はあ?」
ますます、意味が分からない。

「でも、さっきの男だけじゃない。他に、二人いる。ああ、分かりやすく言えば、誰でも良いんだ。いや、誰でもと言うのは語弊があるな。本気じゃなくて、しつこくなくて、割り切れるやつなら、誰でもだ。そういう意味では、男の方が好きかもな。女は、そうじゃないやつが多いから」

「俺、お前の言ってる意味がわかんねえんだけど」
「別に、分かってくれなくても良い」
柳は、あっさりとそう言った。

あれ?
柳って、こんな性格だったっけ。
柳とは中学からの付き合いだけど、こんなやつだった記憶は無い。
だけど、よく考えてみたら、俺は柳のことをこんなやつだと語れるほど、柳と仲が良かったわけではない。
柳と仲の良い真田や幸村は、知っているのかもしれない。

「お前さ、そんな、適当な恋愛ばっかしてんの?」
俺がそう言うと、柳は少し悩むようにしてから、こう言った。
「俺には、これが恋愛というものなのかも分からないんだ」
その答えは、ひどく虚しいものに聞こえた。

可哀想だと思った。
救ってやりたい、なんて馬鹿みたいなことも、頭をよぎった。
もしかしたら、柳は、頭で考えすぎたからこんな風になってしまったのかもしれない。
だとしたら、とても可哀想だ。
最高に馬鹿で、最高に可哀想だ。


現在。

「俺、お前のこと好きだよ」
だからさ、と柳のネクタイを掴む。
いつかしたみたいに。
「お前も、俺のこと好きになれよ」
そして、にいっと笑ってみせた。


俺が、お前のその馬鹿げた思考を壊してやるから、覚悟してろよ、柳。
俺は天才的だから、お前なんか、すぐに俺のもんだよ。



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