バイバイ、黄色いチューリップ | ナノ

13 ミモザ




「絶っっ対嫌だ!」
と俺は担任教師を睨みつけた。

「いや、お前に拒否権はないから」
と言って、担任教師は俺の言葉を無視して、ダンボールを押し付けてきた。
「居眠りしてたお前が悪いだろう、どう考えたって」
「オニー!」
叫ぶ俺を置いて、さっさと教室を出て行ってしまった。


「おーおー、うるさいのう、どしたん?」
「あ!仁王!俺の代わりに行って!」
と俺は仁王にダンボールを差し出す。

「は?どこに?」
「視聴覚室」
「絶対嫌じゃ」
「無理!俺、もう誓ったんだって!視聴覚室には行かないって!」
「意味分からんし。居眠りしとったおまんが悪いんじゃろ」
「お前だって、寝てたじゃねえかよい!」
「んじゃ、バレる方が悪い」
「オニー!」
と俺は再び叫んだ。

なんだよ。どいつもこいつも俺に厳しすぎんだろい。


ミモザ
(感じやすい心)


結局、俺は視聴覚室に行くはめになった。
あ、もう嫌だ、嫌な予感しかしない。

案の定、視聴覚室からは誰かの話し声がした。
誰だかまでは分からないが、なにかを話しているというのは分かる。

まさか、なあ。
同じことは二度ないだろう。

俺は、はあ、とため息をつきながら、渡された鍵を差し込み、回す。
ガチャリという音がして、ドアノブを捻れば、この間とは違いドアは開いた。
今度は、鍵は閉まっていたようだ。























「…っい…やだ…っやめ…っ!」
そして、次の瞬間、聞こえてきた声は、明らかに話し声ではなかった。
その声を、俺はよく知っている。

柳の声だ。

何…、何が起きてるんだ。

回らない頭をフル回転させる。
逆光の中で目を凝らす。
見えたのは、誰かが、誰かに覆いかぶさっている光景だ。

誰かが、柳に覆いかぶさっている光景だ。

可笑しな話だが、俺はその時すぐには動けなかった。
どのくらいかは分からないが、その場に立ち尽くした。
足がすくんで動かなかった。
喉がカラカラに渇いていた。
自分も数日前に、柳に似たようなことをしたというのに、その光景がとても怖ろしいものに見えたのだ。

それでも、なんとか俺が叫ぶのと、いつの間にか後ろにいた女が叫ぶのは同時だった。
「おい…!何やってんだよ!」
「男同士でもレイプは犯罪だよ!」

柳に覆いかぶさっていた男が、こちらを見る。
俺も思わず後ろを振り向く。
後ろに立っていたのは、多分だけど、同学年の女だった。
どこかで見たことのある顔だった。

男は何かぶつぶつと呟いたかと思うと、こちらに勢い良く突進してきて、そのまま廊下を走って行ってしまった。

「…っあ!てめ!」
「良いって、追いかけなくて」
それを追おうとした俺を、女が止めた。

「それより、柳くんを」
言われて、ハッとして柳のところに駆け寄る。

「柳…!大丈夫か…!」
「……だい、じょうぶ…だ」
柳はそう言って力なく頷いたけど、その姿はどう見ても大丈夫じゃなかった。

シャツのボタンは無理矢理ちぎられたようで無いところもあったし、顔や肩には痣もあった。
唇も切れている。

「柳…」
無意識だろうか、柳は俺のブレザーの裾をぎゅっと握っていた。
その手が、少し震えているように見えて、俺は胸が、ギリ、と痛むのを感じた。

「…さっきのって」
と口を開いたのは、さっきの女だった。
「C組の…」
「いいんだ…」
と柳が震える声で言う。
「でも…」
「いいんだ…おれが、おれが…わるいんだから」
その言葉に、俺は憤慨する。
「柳が悪いわけねえだろい!」
でも、柳はただ首を横に振っただけで、それからはもう何も言わなかった。


とりあえず家に帰った方が良いということになって、女は柳の荷物を取りに教室に行った。

女を待っている間も、柳は俺のブレザーの裾から手を離そうとしなかった。
何があったのかと聞いても、柳は俯いたまま首を振るだけで、何も答えてはくれなかった。


女が荷物を持って帰ってきて、俺たちは柳を家まで送った。
家に入る前、柳は小さく「すまない」と言った。
俺は、「別にすまなくねえよ」と返すのが精一杯だった。



「…大丈夫かな」
学校への帰り道、女はぽつりと溢した。
「大丈夫じゃねえだろい」
と返す。
「そっか…そうだよね」
「うん」

「でも助かったよ、お前が…あー…」
「あ、明石、私。明石巴」
「わり。えっと俺は…」
「知ってる、有名人だから。丸井ブン太くんでしょ」
と明石さんは言った。

「俺有名なの?」
「テニス部のレギュラーはみんな有名」
と明石さんは笑う。

「まじ助かった。俺一人じゃ、かなりテンパったと思……っあ!」
と俺はそこで思い当たる。
突然大声を上げた俺に、明石さんは「どうかした?」と訝しげに言った。

見覚えがあるはずだ。
明石さんは、前に、柳に告白していたあの女の子だった。



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