09 はなみずき 「…お前も、そうなんだろう?」 と柳は急に俺に問いかけた。 「どういう意味だよ」 「お前も、きっと、そうなんだ。いつか、俺が嫌になる。男の俺では、無理だと思う日が来る。だから、もう、やめてくれ…。俺のことを好きだなんて、言わないでくれ」 「そんなこと言われても無理だって。俺は、お前のことが好きなんだから」 「違う…っ違う」 「違わねえよ」 はなみずき (私の想いを受け止めて) 「…お前が男だってことぐらい、知ってるよ。男だろうがなんだろうが、俺は、柳のことが好きなんだよ」 柳は何も答えない。 「俺は何があったって、柳のことを嫌いになったりしないよ。つーか、よく考えてみろよ。俺、お前が、色んなやつと適当な恋愛してること知ってんだぞ。お前が、他のやつとヤってるとこだって見ちゃったし。泣いてるとこだって。俺は、お前の最低なところも情けないところもいっぱい見てきたけど、それでも、やっぱりお前が好きなんだよ。よく分かんねえけど、人を好きになるって、たぶんそういうことだろ?」 「お前が好きだ、柳」 何度言えば、どれだけ強く言えば、柳は信じてくれるんだろう。 俺はお前が信じるまで、ずっとずっと言い続けるよ。 たとえ、お前が耳を塞いだとしても。 信じてくれるまで。 お前が、俺のことを、ちゃんと見てくれるまで。 「…その目で…っ俺を見ないでくれ…」 消え入りそうな声で、柳は言った。 「そんな風に…っひ、真っ直ぐな目で…っう、思い出してしまうから…っ」 そして、とうとうその目から涙が溢れ出した。 俺は、その震える身体をゆっくりと抱きしめる。 柳は少しの抵抗もしなかった。 そして、その瞬間、柳は堰を切ったようにわんわんと泣き出した。 「…っうっ本当は…っ」 「うん」 「…っ本当は、言いたかった…っ先生にっひどいって…っ好きって言ったくせにって…っ」 泣いているせいで、途切れ途切れになりながらも、柳は必死に言葉を紡いでいた。 「でも…っい、言えなかった…だって、俺がっ、悪いから…っでも、本当はっ、本当は言って欲しかった…っ別に…っ抱けなくても、愛してるって…っ、そう、言って欲しかった…っ」 「うん」 「好きだった…っ本当に、本当に好きだったから…っ」 「うん」 まるで子どもみたいに泣きじゃくる柳を、俺はずっと抱きしめ続けた。 柳の身体は、俺が思っていたよりずっと細かった。 その細い身体に、どれほどの痛みを抱えているんだろう。 俺には、きっとその全ては分からない。 分からないんだろう。 それは、柳自身にしか。 でも、それが少しでも軽くなれば良いのに、と思いながら、抱きしめた腕にぎゅっと力を込めた。 [←] | [→] |