02月19日(土)14時07分 の追記


・照れ屋な君に真っ赤なハートでスパイスを


バレンタインなんて、馬鹿馬鹿しい。
そもそも、甘いものは苦手だし。

くだらない、こんなもののせいで、一喜一憂するなんて。


「おーおー、大量じゃのう」
「だろい?つーか、仁王、お前もじゃん」
「あー…欲しかったらやるぜよ」
と、持っている紙袋を丸井に差し出す。
中には、今日もらったチョコレートが入っている。

「マジで!?」
「マジ。甘いもん苦手じゃし」
それに、直接もらったものならまだしも、誰からかも分からないようなものを食べるのは恐い。
ま、こいつなら気にせんじゃろ。
目の前の食い意地全開の男を見て思った。

「んじゃ、ありがたくー」
「おん」
と、紙袋を渡そうとした腕を、誰かに掴まれた。

「だめだ」

「…参謀?」
腕を掴んだのは、参謀だった。
「なんじゃ…?」
「…だめだろう…。それは、丸井にでは無く、仁王へのものなのだから」
「まあの。でも、どうせ俺は食べんし、ゴミ箱行きも丸井の胃袋行きも大して変わらんじゃろ」
「そういう問題ではない」

やけにつっかかってくるのう。
面倒になって、言われた通りに、紙袋を引っ込めた。
「…そういうわけらしいぜよ。残念じゃったな、丸井」
「えー!…って、まあそうだよな」
丸井もそこまでの執着もなかったのか、特に異を唱えることもなかった。

「これでええん?」
と参謀を見上げる。
「ああ」


「でも意外じゃのう」
「何がだ」
「お前さんがそこまで気持ちを大事にするとは」
「…普通だろう。せっかくあげたチョコレートが、別の男の胃袋行きというのは、いくらなんでも可哀想だ」
その表情からは、参謀が何を思っているのかは読み取れない。
相変わらずの無表情。

「…そんなん知らんよ…やって、こんなもんいらん」
「…仁王?」
「いらん」
俺の言葉に意味が掴みかねないからか、参謀は不思議そうな顔をしていた。

バレンタインなんて嫌いだ。
甘いものは苦手だし、くだらないし、馬鹿馬鹿しい。
嫌いだ。
本当は。

誰からかも分からない、大量のチョコなんていらない。
本当はたった一人の。

絶対にもらえないチョコが俺は欲しかった。

柳…。
お前からのチョコが欲しかった。
心の無いものでも構わないから、本当はたった一人の。

「いらんよ…俺は」
俺は。
俺は。

あ、だめだ、と思った。
止まらない。
どうしよう。
ああ、もう、こんなん、絶対バレンタインのせいじゃ。

「参謀のチョコ以外はいらん…。参謀のチョコが欲しかったんじゃ…」
情けない。
なんじゃ、それ。
我ながら、余りにも子どもっぽい言動に呆れる。

でも、本当のことだ。

「…仁王」
「なん」
「これ…」
参謀が差し出したのは、たぶん、中身がチョコであろう箱だった。
真っ赤な箱に、細い金色のリボンがかけられている。

驚きに固まる俺に、参謀は困ったように笑う。
「もらっては、くれないか?」

「…義理ならいらんぜよ」
「義理じゃない」
参謀の顔は、いつの間にか赤く染まっていた。
「義理じゃないよ」

バレンタインなんて、馬鹿馬鹿しい。
くだらない、でも。

「参謀…」
「なんだ」
「俺、今、めちゃめちゃ嬉しいぜよ」
そう言って、真っ赤な箱を手に取る。

「それは…良かった」
「おん」

「さんぼー好きじゃ」
いきなりそう言うと、今度は、参謀が驚きに固まる番だった。
「さんぼーは?」
「分かっているだろう。その…チョコをあげたじゃないか」
「えー、分からん」
聞きたい、直接、その口から。

「のう、…蓮二?」
名前で呼べば、観念したのか、参謀は意を決したような表情をした。
「…好きだ…仁王のこと…その紙袋の中身を贈った女の誰よりも」
「うん…」

バレンタインなんかで一喜一憂するなんて、本当に馬鹿馬鹿しい。
でも、たった一つのチョコぐらいで、こんなに幸せになれるんなら、悪くないかもしれない。
少なくとも来年からは、きっと一番欲しい人からもらえるだろうから。
それなら、バレンタインだって甘いものだって、好きになれそうな気がする。
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