02月15日(火)10時18分 の追記


・込められたピンクハートの想いをご賞味あれ


バレンタイン、愛の告白。
でもそれって、男女で行うモンでしょ?

って跡部に言ったら、だからなんだと言われた。
言い訳はそれだけか、と。

そうだよ。
言い訳だよ。
バレンタインだからって、チョコなんて渡せない。
だって、俺も男で、丸井くんも男だから。
というのが言い訳で、要は勇気がありません。
はい、しゅーりょー。


「しゅーりょー、じゃねえよ」
「Aー…」
机に突っ伏した俺の頭を、跡部がコツンと小突いた。
地味に痛いんだよね、これ。

頭をさする俺の目の前に、跡部は、ピンク色の小瓶を差し出した。
「…なに?これ」
俺の疑問に、跡部は不敵に笑ったかと思うと、こう言った。
「惚れ薬だ」

「ほれぐすり…?ってそんなの、本当にあんの?」
「世の中は広いんだよ。無いものなんて無い」
「じゃ、じゃあ、本物?」
「当たりめえだろ。俺様を誰だと思ってんだ」
跡部が、えっらそーに笑う。

「じゃあ、これをチョコに混ぜれば…!」
「丸井はお前を好きになる」
「跡部…!跡部って本当、最高の友達だCー!」
思わず、ガバッと跡部に抱き着く。
なんか呻き声とか聞こえたけど、気にしない。


早速、家に帰って、チョコマフィンを作った。
何度も失敗したけど、妹にも手伝ってもらって、なんとか完成した。
もちろん、生地には、跡部にもらった惚れ薬を数滴垂らした。


次の日、俺は、部活を休んで、丸井くんのいる立海に行った。
部活を休めと言ってくれたのは、跡部だ。
彼には、本当に感謝しなければ。

部室の周りを、ウロウロしながら深呼吸。
緊張して、中々扉を叩けない。
どーしよう。
やっぱ帰ろっかな、と思ったところで、今一番聞きたくて聞きたくない声が背中からした。

「芥川?」
振り返ると、思った通り丸井くんだった。

「あー、やっぱり芥川じゃん。なに、どしたの?」
「えーっと…あ、」
言い訳を考えて目線を泳がせていたら、丸井くんが持っている紙袋に目がいってしまった。
中には、色とりどりの包装紙が見える。
チョコ…いっぱいもらったんだなぁ…。

「…ま、とりあえず中入れば?」
と、丸井くんは、部室の扉を開けた。
丸井くんに続いて、俺も中に入る。

部室には、誰もいなかった。
二人きり。
たぶん、今がチャンス。
というか、今しかないんだと思う。

「あの!丸井くん…!」
「ん?」
鞄の中から、ピンク色の袋を取り出す。
そして、それを、丸井くんに差し出す。

「これ…っあの…」
怖くて、丸井くんの顔が見れない。
「バ、バレンタイン…だからっ」
俯いたままそう言ったけど、何の反応も無い。
どうしたんだろう、と思って、恐る恐る顔を上げてみる。

そして、丸井くんの顔を見た瞬間、俺は持っていた袋を投げ捨てて、部室から逃げるようにして走り出した。
後ろで、丸井くんが何か叫ぶのが聞こえたような気がしたけど、振り返ることはできなかった。


走った。
息が上がって、苦しくなって、これ以上走れないと思って、道端で膝をつくまで、走った。
走っている間にも、さっき見た丸井くんの顔が頭の中に何度も浮かんでは消えた。
そしてまた浮かんだ。

あんな、苦しそうな顔。
そりゃそうだと思う。
男からバレンタインのチョコなんてもらったって。
気持ち悪いに決まってる。

惚れ薬なんてあったって、何の意味も無い。

いや、そもそも、惚れ薬なんてきっと嘘だろうけど。
跡部が、勇気の出ない俺のためについてくれた嘘なんだと思う。
分かってた。
でも、信じたかった。
惚れ薬でもなんでも良いから、俺のこと好きになって欲しかった。

「…芥川!」
「…っえ…丸、井くん…?」
大きな声に驚いて振り返ると、そこには、息を切らした丸井くんがいた。
その手には、俺が投げ捨てたピンクの袋があった。

「やっ…と、追いついた…」
と、丸井くんが俺に近づく。
「や、だ…っ」
「あ!おい逃げんな!」
丸井くんに腕を掴まれて、俺はもう半分パニックみたいな状態だった。

絶交って言われたらどうしよう。
気持ち悪いって、もう二度と来るなって言われたらどうしよう。
頭の中に、悪い考えばかりがグルグルと回る。

でも、丸井くんが言ったのは、俺が思った言葉とは違った。

「…お前、これに何入れたんだよ」
「…う、え…?」
「だからこれだよ。チョコマフィン」
と、丸井くんが袋を掲げる。
「た、たべたの?」
「食べた。すげー甘ったるかった。何入れたんだよ」
「えっと…惚れ薬を…少々」
「は?ほれぐすり?」
「…あと…俺の愛…とか…」

何言ってるんだろ。
意味不明だよ。
丸井くんだって、きっと意味不明だと思っているに違いない。

「…なるほどな」
「…え?」
「どおりで、甘ったるいと思ったぜぃ」
と、丸井くんは笑った。
…笑った?

「なあ、その薬、すげー効き目あんのな」
「は、え!?それっ…どうゆう…っ」
意味、と言おうとしたけど、無理だった。
だって、丸井くんがキスしてきたから。

俺が意味を理解できずにいると、丸井くんが、ニッと笑う。
「ま、んなもんなくったって、俺は元々お前に惚れてるけど」
「え!ほ、惚れ!?」
あ、これは都合の良い夢に違いない、と思って頬っぺたをつねってみた。

痛かった。

「夢じゃねーよ。つーか、俺の方が夢かと思ったんだからな。すげーびっくりしたし」
あれ?もしかして、あの顔って、びっくりした顔だったのかな。

「…っ丸井くん…!」
「なに…っう!?」
嬉しくなって、丸井くんに思いっきり抱き着く。
なんか呻き声とか聞こえたけど、気にしない。
だって、今日は、バレンタインだし!



(ハッピーバレンタイン!)











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