02月12日(土)23時45分 の追記
「赤…也…?」 まずい、と思った。 頭では危険信号が引っ切りなしに点滅している。
背中は冷たい床の上に投げ出され、その上で馬乗りになった赤也は切なげな目をしている。
一体どうしてこうなってしまったのか。 さっきまで、俺はデータの整理のため机に向かっていて、赤也はその横で雑誌を読んでいたはずだった。
「ねえー、柳さん?」 「なんだ?」 「これとこれだったら、どっちが良いと思います?」 と赤也は雑誌を指差した。
「どっちでも良いんじゃないか?赤也は恰好良いから、どちらも似合いそうだ」 と答える。 雑誌を見なかったので、適当なのだが。 まあ、赤也は実際恰好良いので、あながち嘘でもない。 それに、こういう時の赤也は、答えを求めているのではなくただ喋りたいだけだから、中身は適当でも良いのだ。
「赤也…?」 会話が返って来なかったので、どうしたのかとノートから顔を上げると、そこには、少し驚いたような顔をした赤也がいた。 「…っえ、あ、あー…そっスか?」 歯切れが悪いな、と思いながらも、「そうだ」と返した。
また、ノートに顔を戻す。
「じゃあ…」 と、赤也が少しだけ近づいたのが分かる。 椅子が床を擦って、ギ、と小さな音を立てた。 「だったら…柳さんは可愛いっスね」
「なんだそれは」 「そのまんまの意味ですよ」 「男に可愛いも何もないだろう」 「だって、本当に可愛いんスもん。…色々と」 最後の部分だけやけに小さい声だったが、その『色々』にどういったものが含まれているかは、十分に理解出来た。
「あんな姿、見せるのはお前だけだ」
言った途端、俺は赤也に押し倒された。 椅子が大きな音を立てて倒れる。 背中が冷たい床に当たる。
切なげな目をした赤也と、目が合う。
「…あんたが悪いんスよ」
混乱した頭に飛び込んできたのは、赤也の責任転嫁のような言葉だった。
赤也の顔が近づく。 焦点が合わない程の距離で、赤也が呟く。
「あんたが煽るのがいけない」
そして、ゆっくりと合わさった唇に、確かな温もりを感じながら、どこが彼を煽ったんだろうと考えるが、答えは出ないままだった。
データの斜め上をいく赤也であってほしい
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