03月16日(金)23時58分 の追記
〜これまでのあらすじ〜 山奥の旅館にやって来た仲良し八人組。 楽しい旅行になるはずが、大浴場の脱衣所にて落し物の「いちご柄のパンツ」を幸村が拾ったことにより、かつてないほどの大混乱を招いてしまう。 旅館にはその日、自分達以外誰も泊まっていないはずだ。 一体、いちごパンツは誰のものなのか? 名乗り出ようとしない犯人、嘘ばかりつく容疑者達、新たに脱衣所に落とされたバナナ柄のパンツ…。 事件はこのまま迷宮入りかと思われたその時、遂にあの男が沈黙を破る!
「ではもう一度、全ての証言をまとめてみましょう」 「柳生…お前一体どういうつもりだ?」 「幸村くん、今まで黙っていたのですが、実は私はかつて『うどん殺人事件』を解決した中学生探偵なのです」 「え!?あの有名な『うどん殺人事件』を!?中学生探偵ヒロシってお前だったの!?」 「はい。今まで黙っていてすみません」 「いや、良いけど。でもどうして、そのことを俺に?」 「もちろん、この旅館内で信用出来るのが、あなたのみだと思ったからですよ」 「なんだ、分かってるじゃん。で、中学生探偵の推理ではどうなんだい?」 「まあそう焦らずに。全ての証言をもう一度確認するところからはじめましょう」
容疑者その1、切原赤也の証言 「風呂に入ったのは一番最後でした。いやあ、だって下っ端だし。先輩達より前に入るのはどうかなって。だから、俺が行ったのはもう、大騒ぎになってたところでした。幸村さんがさっさと出ろってせかすから、まともに風呂入れなかったッスもん。つまり俺もいわゆる、事件の被害者ってやつッス!犯人絶対許さねえ!」
容疑者その2、真田弦一郎の証言 「いちご柄などという軟派な下着を身に付けるとは…たるんどる!なに?俺の下着?もちろんふんどしだ!色は赤だ。なにか文句でもあるか?あるなら正々堂々ときこうではないか!」
容疑者その3、柳蓮二の証言 「俺が脱衣所に着いた時には、既に何人か風呂に入っていたようだな。精市と一緒に行ったからな、いちごパンツを見つけた瞬間にも立ち会った。そうだな。それについては趣味が悪いとだけ言っておく。俺の下着?知ってどうする」
容疑者その4、丸井ブン太の証言 「風呂には一番乗りで入ったぜい?だーれもいなかったし、その前にも誰も入ってなかったはずだからな。え?そうそう、バナナ柄のパンツは俺のな。だってかわいくね?だからっていちご柄も俺のってわけじゃねえぜ。あれは俺の趣味じゃねえもん。どこが違うかって?はあ?阿呆か。いちごとバナナじゃ、味が全然違うだろい」
容疑者その5、仁王雅治の証言 「俺は丸井とジャッカルの後、真田の前に風呂に入ったぜよ。そん時にいちごパンツが落ちてたか?さあ、そこまでちゃんと周りを見てなかったからのう、分からんな」
容疑者その6、ジャッカル桑原の証言 「俺のパンツ?えーと普通のだけど。別に取り立てて特別なところはないぜ?いちご柄はなー、人の趣味にとやかく言いたくないけど、俺にはちょっとハードルが高いな」
「…と、こんな感じですか」 「うん。とりあえず、全部の証言を信じるなら、俺と一緒にいた蓮二と、俺よりも後に風呂に入りに来た赤也は除外だよね。あと俺は第一発見者だし、シロだ。とすると、真田か丸井か仁王かジャッカル?」 「うーん…その前に、大浴場に行った順番を出してみましょうか。まず初めに丸井くん、次にジャッカルくん、仁王くん、真田くん、幸村くんと柳くん、そして切原くん、とこのようになります。しかしどうもおかしいんですよ」 「どこが?」 「いえ、このままでは大丈夫です。しかしそこに、あと二つ証言を加えるのです」 「二つ?」 「忘れていませんか。この中にはまだ、私達の証言が足りません。正直者の二つの証言を入れると、今のままでは違和感のなかった嘘の証言が、途端に浮かび上がってくるのです」 「でも俺は…見つけたってだけで。あとは赤也が後から入ってきたのも、その時風呂場に全員がいたのも確認したし」 「ではもう少し後を、良く思い出してください」 「後?」 「いちごパンツが見つかり、犯人が見つからず、一旦落ち着いた後のことです」 「別に普通だったよ。風呂に入って、急いで出て」 「柳くんはいかがでしたか?」 「蓮二?」 「そう。あなたと一緒に大浴場に向かっていた柳くんですよ。彼は…お風呂に入りましたか…?」 「え…?…っあ!入ってなかった!そうだ!あんまり急いでて気付かなかったけど、風呂場に蓮二の姿は無かった…!でもそのことが、事件とどう関係があるわけ?だって蓮二のことだから、ゆっくり風呂につかりたいからまた後で入りにこようとか、そう思っただけじゃないの?俺が早く出ろってせかしてたから」 「いえ、そうではありません。柳くんにはお風呂に入らなくても構わない理由が、他にあったのです」 「それって…?」 「柳くんはあの日、幸村くんとともに来るよりずっと前に、大浴場に来ていたのですよ!」
「まさか…!だって一番乗りは丸井だって…!それに、どうして二回も入る必要がある?」 「丸井くんが入るよりも前に上がっていたのでしょう。しかもそれを隠すために、浴室をすっかり元通りにした。二回入ったのも、以前に入っていたことを誤魔化す、カモフラージュでしょう。他人にはばれたくなかった。しかしそこまで隠し通すほどでもなかった。だからあの日、騒ぎになった時点でカモフラージュは諦めたのでしょう」 「なんで他人にはばれたくないと思ったわけ?」 「羞恥心の問題でしょうか。例えば、誰もいない浴室で、誰かとあんなことやこんなことをしていたら…私だったら隠しておきたくなりますね」 「な、なるほど…!じゃあ、いちごパンツを履いていた犯人は…!」 「嘘をついていた柳くん。そういうことになるでしょう。一回目の入浴時に落としていたのもあって、彼はそのことを話さなかった。そうに違いありません」 「そうか!よし!じゃあ今から蓮二のとこ行ってくるよ!」 「行ってどうするのですか?」 「良いじゃないか、いちごパンツ!隠すことないよ!って励ましてくる!」 そう言うと、幸村は返事を待たずに走って行ってしまった。
それを見た中学生探偵ヒロシは、いや、柳生は、いや…。 「…チョロいもんじゃのう」 眼鏡を外し、かつらを脱いだ。 「可愛い可愛いいちごパンツは俺んじゃよ。のう、参謀?」 と一人呟き、クク、とほくそ笑んだのだった…。
しかし彼は知らなかった。 その姿を、後ろから見ている人物がいたことに。 一体誰が?
1、実は柳生が本物ではないと気付いていた幸村。 2、会話の全てを柱の陰から聞いていた犯人に仕立てられた柳。 3、ぐるぐる巻きの布団の中から脱出した本物の柳生。
真実はいつも一つ!
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