02月22日(水)23時34分 の追記


ワアッとテレビから歓声が聞こえた。
チェルシーVSエバートンの試合は、2対0のチェルシー優勢で始まった後半二十分、黒人の選手が決めた3点目によってすでに決着はついたように見えた。
「こいつまた決めよったな。今日2点目じゃなか?」
「いや、さっきゴールを決めた選手とは違う」
「そうなん?黒人ってみんな一緒の顔しちょるように見える」
と仁王はあまり興味なさそうに言った。

「なあ、楽しい?」
「楽しいぞ」
「俺はつまらん」
今度こそ、仁王はあからさまに顔をしかめた。
反応したら負けだ、と思い、柳は無関心を貫くことにした。
「なあ」
横から肩を揺さぶられる。
「なあー」
視界が揺れるせいで画面が見づらいな、と思った。
「なあ!なあ!」
「…うるさいぞ」
そうして結局は反応してしまった。
普段は伏せている目を開いて、ギロリと睨む。

いつもの仁王ならば、ここで大人しくなる。
しかし、なぜか今日は駄目だった。
少し肩をすくめただけで、またすぐに柳の顔を覗き込んでくる。
「恋人の家に来といて、しかも家族も誰もおらんのに、一時間以上ずーっと何もせんでサッカー見とるなんてありえん」
「実に健全で良いじゃないか」
「カップルに健全を求めるな」
仁王は適当なことを言い出す。
カップル、という言葉は、確かにそうなんだろうが、自分たちをさしていると思うと可笑しかった。
あまり合っていない。

テレビに視線を向けたままで、柳は深いため息を吐いた。
今日の仁王はやたらとしつこい。
「勘違いしてはいないか?」
「何が?」
「俺は今日なぜここに来た?」
「イチャイチャしにじゃろ?」
「違う」
ピシャリ。柳は言い放つ。
「俺が昨日のチェルシーの試合を見逃したと言ったら、お前が録画したから見にくればと言ったんだろう。だから来たんだ」
良いか?と今度は仁王の方を向く。
「俺は、サッカーを、見に、来たんだ」
念を押すように言ってやると、仁王はじと、とこちらを睨んでくる。

「サッカーよりテニスのが楽しいぜよ。こんなん裏切りじゃ。テニスと、ついでに恋人への裏切りじゃ」
「テニスが楽しいのは俺も知っている。それとこれとは話が違う」
「サッカーなんて面白ないもん」
むす、と仁王は拗ねたように下唇を突き出した。
「分かったから」
柳はやれやれと首を振った。
「終わったら存分に相手をしてやるから」
「あと何秒?」
「サッカーは前後半九十分だ。あと十分もすれば終わる」
と言い終わる前に、柳の視界は反転していた。
目の端で鮮やかなグリーンが流れる。
「長い、待てん」
言うやいなや、上に跨がった仁王が、柳の剥き出しの首にかぶりついた。
「いった…っおい!仁王!」
「…参謀、うるさいからちょお黙っとって」
さっきまで散々うるさかった仁王の口が、柳の口を塞ぐ。
Tシャツを捲られたと思ったら、すぐに手を突っ込まれる。
ワアッとテレビから歓声が聞こえた。
チェルシーが4点目を決め、エバートン側に諦めムードが漂い始めた頃、柳も無駄な抵抗はやめた。






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チェルシーは四点目を決めてなかったしエバートンは諦めてなかったと思います。
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