12月15日(木)02時37分 の追記


◎なんとなくあらすじ
デートを寝坊で潰したお詫びに仁王くんがデパートデートをプロデュース。


日曜夕方のサティは混んでいた。
映画のパンフレットを持っている人が多いのは、最上階に映画館が入っているからだ。
横にいるカップルが観たいと思っていた映画の感想を言い始めたので、仁王は急いで手にしていたコンディショナーのパックを置き、その場から離れた。

少し離れたところで、柳は色の濃い野菜をどんどんかごに入れていた。
後ろから覗き込み、うえ、と呟く。
すぐに仁王は、その野菜を片っ端から売り場に戻していくという作業を開始した。


ある春のデパート


「ああ、もう、またレタス入れとる!」
かごに入った青々とした葉っぱを見て、仁王は顔をしかめた。
「キャベツは平気じゃないか」
「キャベツは平気、レタスはダメ。仁王家の嫁になるんなら、覚えてもらわな困るぜよ」
「覚えていて入れているんだ」
「嫌がらせじゃあ…」
下唇をぬっと突き出して拗ねた顔をして見せても、柳は「そうだな」と素っ気なく言うだけだった。
「それより、コンディショナーはどうした?」
「あ、すっかりさっぱりじゃった」
俺がコンディショナー選んでくるから、と言って売り場に行ったのをすっかり忘れていた。
「あのカップルのせいじゃ」
「あのカップル?」
「説明すんのめんどい。まあええじゃろ。一人で選ぶより、二人で選んだ方がええもん」
と言って、かごの入ったカートを柳から奪い、勢い良く押した。

売り場にもうさっきのカップルの姿はなかった。
ほっとしつつしゃがみ込むと、仁王は棚に並んだコンディショナーのうち一つを指差した。
「いつも使っとんのでええ?」
「ああ」
二秒で決まった。

「一応シャンプーも買っておいた方が良いんじゃないか?」
と柳が言うので同じシリーズのシャンプーの詰め替え用パックを掴む。
「おう。コンディショナーも予備でもう一個買っとくか?」
「そうしよう」


もう買うものはないと、レジに向かっていたところで、急に柳が立ち止まった。
気づいた仁王も慌てて引き返す。
「どした?」
「これを見ろ」
「これって…コーヒーメーカー?」
「おかしいと思わないか?」
柳がそう言うので、そのコーヒーメーカーの箱を観察してみるが、どこもおかしいところは無かった。
しいて言うなら、値札に赤いマーカーで大特価!と書かれているのが目を引くけど、別におかしくはない。

「どっか変か?」
「変だろう。コーヒーメーカーがなぜ食料品売場にあるんだ。電化製品なのに」
「…そんだけ?」
仁王は思わず言った。
「そりゃあれじゃろ。食品に関係あるから」
「ならばオーブンや炊飯器があっても良いのか?」
なぜか柳はかたくなだ。
「んじゃ大特価じゃから。ちゅうか良い悪いやのうて…」
「よし、買おう」
「はあ?」
びっくりして声が裏返った。
何がどうやってそうなったんだ。
仁王には意味が分からなかったが、柳の中ではどこかで繋がっているらしい。
なぜか嬉しそうにしながら手前の箱をかごに入れている。

「待った。買う必要あるか?うちにあるやつまだ使えるじゃろ?」
「もう古くなっているじゃないか」
柳は自信満々に言う。
「それにわざわざ食料品売場に置いてあるんだぞ。良いものに決まっている」
そうか、決まっているのなら仕方ない、と仁王は思った。
「ならええか」
とあっさり賛成した。
せっかくのデートを寝坊で潰してしまったという負い目も少しはあったし、こういう時の柳は譲らないと分かってもいた。
でも結局は、柳が嬉しそうにしているのに、その顔を曇らせる必要こそないと思えたからだった。

「黒と茶色どっちにした?」
とカートを押す柳の背中にたずねる。
「黒」
「俺もそっちがええと思っとった」
「それは良かった」

背中越しに見えたかごの中はいつの間にかいっぱいになっていた。
カートの持ち手の片方を柳から奪い、仁王はこみ上げてくる笑いを堪えながら言った。
「なあ、俺の言った通りだったじゃろ。買うつもりなんかなくても、かごん中いっぱいになっちょるって」
「さあ、なんのことだか」
かごをチラリと見た柳が、わざとらしくすました口調で言うのがおかしかった。





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同棲してる仁柳の部屋に飾ってあるちょっとおしゃれな絵の額縁にでもなって一日中観察してたい
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