09月27日(火)01時48分 の追記
○月×日
こんにちは。 お元気ですか? 俺は病気なことを除けば元気です。 病院での生活があまりにも暇だから手紙を書きます。 こんな風に蓮二に手紙を書くのは初めてで、どうやって書いたら良いか少し迷っています。 いつも通りで良いのかな。かな?
あ、そうそう、手紙を書くことは、リハビリにもなるそうです。 俺は前から字が綺麗な方ではなかったけど、今はもっと汚くなっちゃったから。 蓮二がちゃんと読めてると良いんだけど。 書いていくうちに綺麗になるはずだから、今は勘弁してください。
今日の俺は、園芸の本を読んだり、蓮二と柳生が作ってくれたノートを参考に勉強をしたりして過ごしました。 三角なんとか?ってアレわけ分かんないよ。 今度教えて。
蓮二も返事を書いてくれたら嬉しいです。 部活のメニューやらは聞き飽きてるから、もっと面白いことが良いな。 真田が校庭で乾布摩擦してたとか、赤也が鼻から牛乳こぼしたとか。 そういう日常に、俺はとことん飢えてるから。 蓮二の手紙を読むの、楽しみにしています。
幸村精市
柳蓮二様
○月△日
お返事ありがとう。 毎日お見舞いに来てくれるのに、蓮二がいつまでたっても手紙をくれないから、忘れられちゃったのかと思って焦ったよ。 まさか、ちゃんとポストに投函するとは思って無かったな。 でもそうだよね。 手紙ってそういうものだよね。 ていうか、病室にも手紙って届くんだね。 びっくり。 そして更にびっくりなのは、俺の予想が当たったこと。 俺って未来予知の才能もあるの?
ていうか真田、なんでこのくそ寒い中乾布摩擦してんだよ。(あ、乾布摩擦ってそういうもの?) しかも校庭のど真ん中なんて迷惑極まりないよ、もう。 それから、赤也の牛乳の件だけど、『牛乳を口に入れたままお笑いビデオを見て、誰が一番耐えられるか大会』ってさ。 それでどうして口からじゃなく鼻から噴いちゃうわけ? そこまで我慢したってこと? いくらバカ也でも馬鹿すぎじゃない? あと、俺がいないとこでそんな面白そうなことするな!
まあ君たちが元気なのは分かったよ。 でも気付いたんだけど、蓮二のことが一個も書かれてないよ。 蓮二から見たみんな、ばっかでさ。 というわけで、次は蓮二の近況報告をすること! 毎日会いに行ってるのに、っていうのはナシで。 じゃ、お返事待ってます。
エスパー幸村
柳蓮二様
○月☆日
お手紙ありがとう。 もうこれ以上寒くなることはないって思ってたのに、寒くなって驚いた。 病院にいても分かるんだから、外じゃ尚更だろうね。 昨日ついに真田がマフラーをしてたから、相当な寒さなんだと思う。 仁王に至っては、何あれ?だるま? 誰だか分からなくなるくらい着込むのはやめろって言っといて。 病室に入って来た時、不審者かと思ったよ。
蓮二の近況報告もありがとう。 ケーキバイキング、良いな! あまりに詳細な報告で、お腹が空きました。 罰として次のお見舞いにはケーキを持ってくること! 読んだ本の紹介もありがとう。 あまりに詳細な紹介で、俺も読んだ気分になっちゃったよ。 今あの本について説明しろって言われたら、ストーリーはもちろん、登場人物の生い立ちまですごく丁寧に語れると思います。 なんたって、オチもトリックも全部知ってるから!読んでないのに!
なにはともあれ、お手紙ありがとう。 次も楽しみにしているね。
精市・ホームズより
蓮二・ドイル様へ
追伸 手紙の端の絵、何? もしかしてジャッカル? 誰が描いたか知らないけど、絵心無さ過ぎだろい!
○月□日
ちょっとどういうことだよ! 赤也と図書館デートなんて! ふざけるな! 浮気者! 即刻返事を求める! 言い訳なんか聞かないぞ! でもすぐに返事を書くように! 詳細に!詳細に!
猛烈に怒ってる俺より
浮気者へ!
○月◇日
まずはごめんなさい。 前の手紙で暴言が過ぎたことを謝ります。 まさか、赤也と二人っきりじゃなくて、仁王もいたとは思わなかったんだ。 だって、蓮二は『赤也の勉強会で図書館に行った』って書いたんだよ? 二人きりだと思うじゃん。
たぶん仁王は一緒にいても、寝てるか、興味のある本をペラペラしてるだけだったんだろう。 蓮二のことだから、俺がこの間の手紙で詳細さを暗に批判したから、余計なものは省いたんだろうね。 でもね、良いかな。 仁王って余計かな? そこんとこは俺にも良く分からないし、ぶっちゃけどうでも良いけど。 とにかく、怒らせたみたいでごめん。 蓮二が書いた俺への文句、便箋二枚分を読んで反省しました。 もう手紙書かないなんて言わないで。ね。
猛省中の幸村
麗しき柳蓮二様々
追伸 封筒を開けたら、中からおもちゃの蛇が出てきた。 誰の仕業? 俺、一応病人です。 蓮二の仕業じゃないことを祈ってます。
▲月○日
お手紙ありがとう。 もう書いてくれないかと思ってたから、嬉しかった。 蓮二との手紙は本当に楽しいから、無くなるとかなり悲しいです。 蓮二の手紙はいつも丁寧で、読んでいると、みんなのこと、蓮二のことがよく分かります。 詳細に、ね。 字も綺麗で読みやすい。 便箋も毎回変えてくれる。 そして何より、便箋からいつも違う花の香りがして、俺を楽しませてくれます。
今日の便箋からは百合の香りがするね。 俺は、蓮二と百合が似てると思っていたから、今日は開けてみて少し驚いた。 百合はすらっとして上品だし、頭は垂れてて謙虚な感じがする。 ね、蓮二みたいでしょ?
今日はちょっと恥ずかしいことを書いてみたよ。 恥ずかしいことを一生懸命書いてこその手紙だと思うんだ。 これを読んだ蓮二まで恥ずかしくなったとしても、それはそれで成功かも知れません。 では。
幸村精市
百合の似合う君へ
▲月◇日
こんばんは。 明日はいよいよ手術だから、蓮二にこの手紙を書いています。
手紙が届く頃、きっと俺の手術は成功していると思う。 リハビリも万事上手くいって、俺はテニスコートに戻る。 赤也は大げさなぐらい嬉し泣き。 真田もみっともなく男泣き。 柳生もハンカチで涙を拭うだろう。 ブン太は絶対俺の肩にのしかかってきて、「おかえり!」って言うんだろうな。 それにジャッカルが続いて、照れ臭そうに「おかえり」って言うんだ。 仁王は「ピヨ」とか「プリ」とか言って泣くのを誤魔化すに違いない。 蓮二はどうかな? 泣いてくれるかな。 それとも笑って、「おかえり」って言ってくれるかな。 両方かな。 両方だと良いな。 こうして、みんなのことを考えてると落ち着きます。
今はとにかく、早く帰ってみんなとテニスがしたい。 不思議なことに、俺は絶対成功することしか考えられないんだ。 絶対的な味方がたくさんいるって、分かってるからかも知れない。 家族とかみんなはもちろん、医者の先生とかクラスのみんなとか病院の人達とか。 とにかく、たくさん。 だから病気なんかに負ける気がしません。
じゃ、行ってくる。
幸村精市より
親愛なる柳蓮二様へ
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