04月09日(土)21時37分 の追記


◎読まなくても支障のないあらすじ

自分が柳さんのヒモ同然だと気づいた仁王くん。
家事を手伝おうとするも、風呂掃除中に給湯器を壊してしまう。
別に怒られなかったけどなんとなく罪悪感を感じて、今度はご飯を炊いてみたようです。



「柔らかいな」
「やから、ごめんって」
仁王が謝る。
三回目だ。
炊き上がったご飯を見た瞬間に一回謝って、柳がすぐに文句を言ってきたからまた謝って、そして今、ご飯を口に入れた途端にそう言われたから謝った。


ある冬の夜の夕食


「嘘、別に見た目ほどじゃない」
「ほんまに?」
「ああ、だから食べてみろ。堅めのお粥だ」
「柔らかめのご飯、じゃないんじゃね」
と仁王は落胆する。
試しに食べてみると、思った以上に柔らかかったので、更に落胆する。

「どこがいけんかったんかのう…」
と箸でご飯をいじくる。
「水の量が多過ぎたんだろう」
「ほうか」
「あとは、洗っている時に、米を落としすぎだ」
「やって、あれ、ぽろぽろ落ちよるよ」
「手で押さえるんだ」
「押さえても落ちよる」
「ならあらかじめ水を少なめにするんだな」
と柳は苦笑いをして、それから、「また炊くつもりがあるのなら、だが」と言った。
「あるぜよ」
と迷わず言い返す。
「これから、ご飯炊きは、俺の当番じゃき」
と言えば、柳は大袈裟に驚いた顔をした。
明日には忘れているに違いない、と思ったんだろう。
ありえなくはない、と思った。

「柳は料理上手いのぅ」
仁王は味が染み込んだ大根を崩しながら言う。
箸で切ったところからじゅわ、と出汁が漏れ出した。
お世辞でも、失敗を取り戻すために褒めているわけでもない。
「慣れただけだ」
「ふうん」

「あ、そうだ」
と柳が思い出したように声を上げる。
「なんじゃ」
「明日は遅くなるから、適当に外で食べてくれ」
「え、そうなん?」
「ああ」
「あ、やから朝銭湯?」
仁王の言葉に、柳が頷く。

「銭湯って、こっからすぐなん?」
「ベランダから煙突が見えたはずだ」
「あ、あれ銭湯のなんか。ゴミ処理場のだと思っちょった」
んじゃ、近いんじゃね、と言うと、でも湯冷めするかも、と返ってきた。

「コーヒー牛乳ある?」
「銭湯に?」
「うん」
「多分、ある。ミックスフルーツはあったから」
「ミックスフルーツ飲んだん?ちゅうか行ったことあったんか」
少し驚いた。
柳が一人で銭湯に行くとは思えなかった。
「越したばかりの頃に、精市が行きたいとうるさかったから」
「ああ」
言われて、仁王は、一度だけ会った、柳が親友だと言っていた男のことを思い出す。
女みたいな顔をしているのに物凄い傍若無人だった記憶がある。
「幸村なら言いそうじゃ」
「だろ」
柳が肩をすくめる。

「フルーツミックスもええけど、やっぱりコーヒー牛乳じゃな」
と話を元に戻す。
「精市は、やっぱりフルーツミックスだなと言っていた」
「人は人、うちはうち、じゃよ」
「なんだそれは」
柳がクスクスと笑う。
「仁王家の人間は銭湯の後はコーヒー牛乳っちゅう決まりがあるけ、柳も明日はコーヒー牛乳じゃ」
「俺は柳家の人間なんだが」
「え、仁王家に嫁ぐっちゃうありゃ嘘じゃったんか…」
仁王がわざとらしい泣き真似をすれば、柳もわざとらしいため息をついた。


「ご馳走様」と柳が言うのを見計らって、仁王はこたつから出た。

仁王より柳の方が食べるのが遅い。
大体は柳が食べ終わるまで、仁王も皿を片付けずにいる。
喋ったり、柳が食べているのを眺めたり。
柳が食べ終わると、皿を流し台に持って行き、二人でのんびりと過ごす。
柳のやる気がある時は、皿はすぐに洗われて、ない時は、仁王が風呂に入っている間に洗われているようだ。

冷蔵庫を開ける。
昼間、コンビニに行った時に買っておいたものを取り出す。

「はい、デザート」
と柳の鼻先に小さな袋を差し出す。
「あ、これは…」
「プレミアムロールケーキ。柳好きじゃろ?」
仁王も同じものを手に、再びこたつの中に入る。
「ああ、好きだ。コンビニデザートの中でもこれは特に美味い」
「じゃな」
ビリ、と柳が袋を破る。
仁王も同じように破る。

スプーンやフォークは使わず、手づかみでかぶりつく。
「美味いな」
「おん」
「あ、コーヒー煎れれば良かった」
「今から煎れてくる?」
「面倒だから良い」
ぱくぱくと、ロールケーキは一瞬で無くなった。

「ご馳走様」と柳がもう一度言い、それから、大きく伸びをする。
おぼんに重ねた皿を載せ、立ち上がった。
「すぐ洗うん?」
「うん」
「んじゃ手伝う」と言って立ち上がろうとすると、「ご飯炊き係は座っていろ」と言われた。
心外だ。










プレミアムロールケーキ、母がはまってます。

幸村は柳さんの親友。
中学高校と一緒です。
仁王くんは別の学校です

二人の出会いは共通の友人柳生の紹介。
柳生と仁王くんは高校が一緒、柳生と柳さんは大学が一緒。
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