「ロードバイク・・・」
バイト休みの学校帰り、またしても真紀ちゃんのバイトと重なってしまった私は久しぶりに本屋さんへ来た。特に買うものも無く雑誌を立ち読みしようと思ったのだが、自然と足取りはスポーツ雑誌のコーナーに向かってしまって、気づけば目の前には《ロードバイク》やら《競輪》やら《サイクリング》と書いてある表紙の雑誌を手にとって読んでいた。へぇ、ロードバイクって軽いんだ。ていうか高っ!!何十万もするの!?そういえば東堂くんが良くクライマーがどうとか登れるとか話してたけど、クライマーって山を登るのが得意な選手なんだぁ。
「いやいやいやいや何してんの私。帰ろ」
急いで雑誌を戻して家に帰った。
「ヒルクライムの大会?」
いつも通り東堂くんにバイト帰り家まで送ってもらっていると、突然「近々あるヒルクライムの大会に来てくれないか?」と言われた。
「オレのライバルの巻ちゃんとの久々の試合だからな!苗字さんに見に来て欲しいのだよ!」
「いつあるの?」
「五月四日だ!」
「多分休みだと思うけど、私なんかが行ってもいいの?ロードバイクの事とか、自転車競技の事とか全然知らないのに」
なんて言ってるけど、雑誌見たしこの間少しだけインターネットで調べていた、だなんて口が裂けても言えない。
「知らなくても、見に来てほしいのだよ!」
「そういうものなの?」
「そういうものだ!!!」
あまりにも東堂くんが下がらないので、仕方なく首を縦に振った。本当は私自身興味もあったし、見てみたかった。真紀ちゃん誘って行こうかな。
「苗字さんが応援してくれるなら、優勝しなければならんな!」
優勝なんて簡単に出来るものではないのに、東堂くんは簡単に口にした。翌日真紀ちゃんにその話をしたら、一緒に行ってくれる事になった。東堂くんが自信満々だという事を話せば、東堂くんが過去の大会で良い成績を収め続けている事を知った。そして、東堂くんは山神と呼ばれているらしい。
「うわあ・・・凄い」
五月四日。ゴールデンウィークの為か観客も沢山いる。勿論、その中には
「キャーッ!!東堂様ァーッ!!」
東堂くんのファンもわんさといる。
「相変わらず人気だねぇ、東堂様は」
「近くで見ると圧倒される」
スタート地点には、女子のファンだけではなく《山神》と書かれた旗を持っている男の人もいる。ただのイケメン選手ってわけじゃないんだ。
「ていうか、東堂様の隣にいる人めっちゃ美人じゃない?男だけど」
「うわっ、本当だ!しかも凄いスタイルいいね」
「ちょっと髪色派手だけど」
女子のファンにキャーキャー言われてニコニコの東堂くんの隣に、嫌そうな顔をして東堂くんを見る緑髪の美人な男がいた。
「間も無くレースが始まります」
アナウンスが聞こえて、東堂くんの顔つきが変わった。いつもの緩んだ笑顔ではなくて、集中している顔。
「優勝しろよ尽八!」
「負けんなよォ」
ん?この声・・・声のした方、横を見てみればそこには荒北くんと新開くんがいた。いち早く反応した真紀ちゃんは新開くんの元へと走る。
「新開くんっ!」
語尾にハートでもつきそうなくらいの猫なで声で、新開くんに話しかける真紀ちゃん。私達に気付いた新開くんは、驚いた顔をしてから笑顔を向けてくれた。荒北くんは「あ?」って恐ろしい顔を私達にむけた。
「尽八、苗字さんの事呼んだんだな」
「アイツが誘わねぇわけねぇだろォ」
「ははっ、そうだな」
そのあとすぐにレーススタートの合図が鳴って、東堂くん達クライマーの皆さんが飛び出した。楽しそう、だけど真剣な東堂くんの顔に少しだけ見惚れてしまった。
「オレ達、車でゴール地点まで行くんだけど苗字さん達も乗っていくかい?」
「え!?いいの?」
「ゴールした所も見て欲しいと思ってるさ、尽八は」
新開くんのお言葉に甘えて、箱学のバスに乗ってゴール地点まで送ってもらった。こんな激坂を、いま東堂くんは自転車で走っているんだ。私には絶対無理。
「先頭選手来るぞーッ!!!」
暫くすると、下の方からそんな声が聞こえた。箱学の自転車競技部の後輩にとっておいてもらったらしい見物場所まで提供してもらって、レースにくぎ付けになった。遠くから見える範囲で、先頭は・・・東堂くんとあの緑髪の人。接戦だった。
「東堂様ァ〜っ!!!!」
「頑張ってぇ!!!」
ファンクラブの子達の声が響く中、ゴールまであと数メートル。未だに接戦でどちらも勝利を譲らない。
「負けんな東堂ォ!!!」
「行け!!尽八!!!」
「東堂様頑張って!!!」
荒北くんも、新開くんも、真紀ちゃんもまだ先にいる東堂くんに声援を送っている。私も大声は出すつもりはなかったはずなのに、気付いたら大声で声援を送っていた。
「東堂くんっ!!勝って!!!」
少しずつ近付いてくる東堂くん。私達の声援が聞こえていたかの様に、ニッと笑ってまた一段階スピードが上がった。そして・・・
「ゴーーーールッ!!!!!」
ゴールラインを先に踏んだのは、空を仰いだのは
東堂くんだった。
to be continude
初めての大会観戦
前 / 次