「荒北くん!ちょっといい?」

「あ?ンだよ」


バレンタイン当日、昼休み。食べ頃だと思って靖友のクラスに昨晩作ったガトーショコラを届けようと教室を出た所で、靖友が女子に呼び出されているのを見つけた。頬を染める女の子からして、いつもの「東堂くんに」や「新開くんに」といった頼み事ではないことが分かる。けれど、こんな事は初めてで、気になって後をつけてしまった。


「これっ!!」

「またかヨ。東堂?新開?どっちに・・・」

「違うの!これは、荒北くんに!」

「・・・はァ?」


靖友は東堂や新開に渡すものを頼まれたと思っていたのだろう、突然女の子にチョコを自分宛だと言って渡されて固まっている。


「えっと、私・・・荒北くんが好きなの!!」


それを聞いた瞬間、それに靖友がどう答えるのかを聞くのが怖くてその場から逃げてしまった。




【昼休み、何で来なかったのォ?】


昼休みが終わると、靖友からメールが届いた。あの後は結局、靖友にバレンタインも渡せずに教室に戻ってきてしまった。あれを見た後からずっとモヤモヤしている。初めての感覚、これが俗に言う嫉妬というやつか。


「はぁ・・・」

「何溜息ついてンだよ」

「・・・!?や、靖友っ」


いつの間にか授業は終わっていて、目の前の席には靖友が座っていた。何故かクラスの人間はいなくなっていて、次の授業が移動教室だということにも気づく。


「ん」

「・・・なに?」


手を差し出され、チョコを求めているのが分かるが敢えて知らないふりをする。


「チョコ、持ってきてんだろォ」

「・・・忘れた」

「・・・んなわけねーだろ、おめーから匂ってんだよチョコの甘ェ匂いが」


顔を近づけてくる靖友に、そういう気になれない私は顔をそらした。


「・・・さっきの、見てたんだろォ」

「・・・なんの話」

「オレに隠し事出来ると思ってんのかァ?」


私の頭を撫でながら、笑う靖友。


「心配すんな、断ったに決まってんだろ」

「・・・」

「大事な彼女がいるから・・・ってなァ」

「・・・へー」


靖友のいつもより優しい声と優しい頭の撫で方に、さっきまでのモヤモヤが一気に飛んだ。


「くれねェの」

「・・・ん」


鞄の中からチョコを出せば、嬉しそうな顔をする靖友。さっきまで自分が嫉妬して不貞腐れていたのがバカみたいに思えてきた。


「アンガトネェ」

「靖友」

「あ?」


さっそくガトーショコラを食べ始めている靖友は口に含みながら返事をした。


「すき」

「!・・・知ってんヨ」

「靖友は?」

「・・・好きに決まってんだろォ、バァカ」



end

ハッピーバレンタイン
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