「体調はどう?なまえA」

「何ともない」

「何も食べてないでしょ?はい、これ」

「ありがとう」


あのあと、暫くして部屋に戻ってみるとなまえAは先に寝てしまっていて、それから朝までずっと起きなかった。朝食・・・といってもあまり状態の良くないフルーツだけど。それを切って部屋まで持ってきた。


「今日は朝食食べて準備ができたら出発するみたい」

「分かった。支度しておく」

「・・・なまえA、荒北と何かあった?」


ピクッと動いたなまえAの身体を見て、すぐに何かあったことを悟った。けど、なまえAは何もないよといつものポーカーフェイスで言って果物を食べはじめてしまったので、わたしもそれ以上追求することはなかった。


「じゃあ、私もう朝食済ませてあるから準備しておくね」

「分かった」


部屋を出て、幹ちゃん達にも説明をして下に降りた時だった。


「キャァアア!!!」

「・・・ー!!!」


階段を降りたところで、フロントから悲鳴が聞こえて駆け寄ってみて、息を飲んだ。フロントのガラスにへばりつき、涎を垂らして唸っているアンデッド。一体どころではない。何体もいる。


「何事だ?・・・!」

「・・・あー、めんどくせェ」

「これは驚いたな。どうする?寿一」

「・・・」


腰が抜けてしまった女性を立たせて、泉田に頼んで上に運ぶように伝えた。階段にも幹ちゃんや他の生存者がいたが、皆怖がってすぐに自分たちの部屋に逃げ込んでいる。


「まさか一晩でこんなにたかってくるなんてね」

「昨日は皆疲れて見張りどころじゃなかったからな。きちんと見張っていればこんな事にはならなかっただろう」

「ったくよォ、日に日に増えやがって」


これじゃあ外に出ることもできないだろう。それに、このガラスだって何体もいるアンデッドに押されていつ割れるか分からない。いくら強化ガラスでも入口の扉のガラスは他より薄い。


「いつでも脱出出来るように荷物をまとめておけ」

「でもよォ、脱出できる確率少ねーヨ福チャン」

「オレ達は強い」

「・・・わーったヨ」


上にいる生存者に荷物をまとめさせて、泉田と新開に見張りを頼んで私は他に出口が無いか探して回った。従業員用の出入り口が一つと、厨房裏に一つ出入り口があった。しかし、どちらも扉の向こう側が見えない為安心だとは限らない。今開けてアンデッドに見つかったら集られて隙がなくなってしまう。それに、フロントの入口から出なければ、車が取り戻せない。車には荷物や食料、武器も詰んである。


「なまえA、作戦は?」

「裏口から他の生存者と一緒に出て、誰か一人が囮になってフロントの入口を開けて中にアンデッドを入れて逃げる・・・その隙に、車をとって逃げられれば・・・」

「オレが囮になろう」

「なに言ってンだよ福チャン!!囮ならオレがなるからァ!!!」

「囮は・・・私がなる」


全員、一瞬で静かになった。なまえAが、自分が囮になると言い出したからだ。


「っざけんなヨ!!!」

「なまえA、自分がなに言ってるか分かってるの!?だいたい、昨日体調崩したばかりなのにそんな事させるわけ・・・」

「荒北、みょーじ@。オレはみょーじAの意見も聞きたい」

「っ福富・・・」

「もし、靖友や東堂やなまえ@が残ったとしても何かあったらいくら強くても一人では片付けられない。けど、私のこの力があったら避けられる」

「お前はやれる自信があるのか?」

「ある」


私も荒北も、言いたいことはあるが福富に止められれば黙らなければならない。


「私も、この力は本当に危ないと思わなければ使う気は無い。安全に出られたならそれはそれでいいと思う」

「分かった。囮はお前に任せる。但し、荒北。お前も一緒に行け」

「・・・分かったヨ」


あンがとネェ、なんて小声で福富に言う荒北。本当は私も行きたかったけど、荒北が行くなら私は自分の仕事をしよう。






荷物をまとめて武器を持って幹ちゃん達を連れて下に降りた。見張りをしていてくれた新開と泉田を連れて厨房の出口に向かう。


「なまえA、絶対合流しようね」

「大丈夫」

「荒北、待っているぞ」

「死ぬなよ靖友」

「荒北・・・任せた」

「ったく、大袈裟なんだヨ」


なまえAと荒北に声をかけて、福富と新開、泉田をを先頭に幹ちゃん達を真ん中。私と真波と尽八を最後尾にして厨房を飛び出した。私達が飛び出してから1分後にロビーの扉を開けることになっている。幸いここのホテルはそんなに広くない。1分もあれば裏口から正面なんてすぐだ。裏口にはアンデッドは全くいない。建物の角でロビーの入り口を見れば何十体といるアンデッド。


「みょーじAの撃つ銃声が聞こえて三秒数えたら飛び出すぞ」


すぐに聞こえた扉が開けられる音と銃声。ゆっくり三秒数えて、福富と新開と泉田がまず飛び出して近くにいるアンデッドを始末する。そのあとに続いて幹ちゃん達を連れて小型のバスに乗せる。運転席には40代くらいの男が乗って全員乗り終えた事を確認してバスの扉を閉めた。車の数を減らした為に残りあるのは三台。一台は福富が乗って一台は新開、そしてもう一台は私と尽八と真波で乗った。


「なまえA・・・っ」


あとは、なまえAと荒北を待つだけ。





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