「本日からうちの園にも教育実習生が来ることになった」

「黒原咲子です」

「杉本亜心です」


昨日から言われていた教育実習生の事で、今日はいつもより早くに園に通勤してきた。金城園長の隣には、若い女子大生が二人。勿論、二人の目線は東堂に注がれている。ああ、荒北がブスで良かった・・・と失礼ながら油断していたのだが。


ガシャァンッ


「っぶね、大丈夫?」

「は はい!」

「気をつけろよォ」


脚立に乗って飾りを貼っていた黒原さんがバランスを崩して脚立から落ちそうになったところを荒北がキャッチして助けて・・・黒原さんは荒北に落ちた。そう、彼女は荒北がカッコいい事に気づいてしまった。


つまり

黒原さん→荒北
杉本さん→東堂

という状況である。


「東堂先生、これってどうやるんですかぁ?」

「それなら私が教えてあげー・・・あ、これからやらなきゃいけないことが!!うん、東堂教えてあげて!!!」

「?分かった」


今名前@が途中で言うのをやめたか・・・それは、杉本さんに睨まれたからだ。私は名前@の隣にいたから、分かる。「こっち来るなババア」と語っている彼女の瞳が。


「いや、ババアなんて言われてないからね!!!」






一日目が終わった。
彼女達は荒北と東堂の効果なのか、テキパキと働いてくれていてとても助かる。・・・が、私と名前@に対して攻撃的だ。ハッキリ言って面倒。


「一週間もいるんだよ、あの子達。辛すぎる」

「若者ってあんなに怖いなんてね」


名前@はかなり参っている様子。私は仕事の邪魔をされなければ然程気にならない。面倒だけれど。


「東堂と会話してただけでめっちゃ睨まれた」

「それなら私も」


若者とは嫉妬深い生き物である。





「あ、おはよう」

「・・・おはようございます」


名前@が、黒原さんと杉本さんを見つけて挨拶をしたときだった。面倒くさそうに挨拶を返す彼女達に、さすがに私もイラっとしてしまった。


「挨拶も出来ないんじゃ、先生なんて出来ないよ」

「!っ・・・行こう」


その言葉に二人もイラっとしたのか、急いで私達の前からいなくなってしまった。


「・・・私は言葉もでないよ」

「そんなんじゃ舐められるよ」


着替えを済ませて、いつも通り園児を迎えて朝の挨拶をして教室でお絵かきをしたり英語をやったり。園児の前では本当に、いい先生を演じている。けどたまに見える疲労やウザそうな顔。子供が好きなだけじゃやっていけないのが先生だ。


「どうだ?実習生は」

「金城園長・・・今の所は大丈夫ですけど、あと二日くらいしたら泣く子も出るんじゃないですかね」

「ああ、そうだな」


私自身の経験も、前の幼稚園での実習生もそうだった。子供が好きで保育の学校に入ってみたものの、実際に実習に来てみれば過酷なものだった。金城園長自身もそれを理解した上で聞いているのだろう。


「人気だな、あの二人は」

「あれだけ人気だと大変ですね」

「ああ。前にここに勤めていた女性もあの二人に振られて辞めたからな」

「金城園長が一番大変ですね」


少しだけ園長と話をした後に、また仕事に戻った。


「あ 名前Aせんせい」

「どうしたの?新開くん」

「さっき、くろはらせんせいが、やすともせんせいのことすきっていってたぜ」


ウインクしてバキュンポーズをしながら得意気に言う新開くん。・・・なんて反応すればいいか分からない。


「えっと・・・そうなんだ」

「?せんせい、いやじゃないの?」

「え?」

「やすともせんせいのこと、すきだろー?」

「・・・」


何で知ってるのこの子。相手は幼稚園だから、正直にはいそうですなんて言わなくてイイだろうけど。


「凄いね新開くん!なんで分かるの?」

「おれ、なんでもしってるぜ」

「・・・」


なんであんたがバラすかな。どこからか現れた名前@が新開くんにバラしてしまった。私は何も答えていないのに。


「荒北くんがあんな状況でいいのかなぁ?名前Aちゃん?」


ニヤニヤしながら聞いてくる名前@にイラっとした。自分も東堂が気になってる・・・いや、好きなくせに。まだあまり自覚していないみたいだから言うつもりはないけど。


「仕事だからね」

「んー・・・仕方ないけどさぁ」

「げんきだせよ、せんせい」






園児が帰った午後。自分の仕事も終わらせ着替えを済ませて帰ろうとした時だった。ひとつの教室に荒北と黒原さんが残って作業をしていた。


「あの、荒北先生って優しいですよね」

「ハァ?普通じゃナァイ」

「普通じゃないです!気が利くし、優しいし・・・」

「・・・」

「本当、いい先生だと思います」

「・・・あンがとネェ」


少しだけ照れているのか、視線をそらしている荒北。そんな荒北を見て、胸が痛くなった。


「あの、荒北先生は彼女いるんですか?」

「あ?いねーケド」

「!本当ですか!?良かった〜」


嬉しそうに笑う黒原さんは可愛いらしい。若いし・・・

こんなところ見てたって、自分には何も得はないと思いその場を離れた。本当は損得とかそういう問題ではなくて、ずっと胸が痛かったから。


「・・・恋って、面倒」


明日になれば、きっとこの胸の痛みは無くなっている。きっと切り替えられる。そう願いながらなるべくあの二人のことを考えない様にした。



to be continude


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