「乾杯ッ!」


居酒屋の個室で名前Aと私はレモンサワー、東堂と荒北はビールで乾杯した。金城園長も誘ったらしいけど、お嫁さんが待っているからと断られたらしい。なんて素敵な旦那さんだ。


「はー、美味しい」

「初めてだよね、こういうの」

「仕事を始めたばかりで、それどころでは無かったからな」

「そーだねェ」


一口お酒を飲んでから話せば、幼稚園で働いているときよりは何だか気を使わなくていいというか。気なんて使っているつもりないけど。


「仕事には慣れたかね?」

「うん。園児も少ないから名前もすぐに覚えたよ。みんな個性的だし」

「確かにみんな個性的ね」

「不思議チャンが多いンだヨ」


みんな不思議で個性があって面白い。それに、みんなえらい。良い子すぎると思う。


「おもしれェのは新開と泉田だろォ?普通あんなに食う五歳児いねーし、あんなに筋トレ好きな四歳児もいねーヨ」

「私も入ったばかりの時には吃驚した。四歳児が筋トレしているところなんて初めて見た」

「名前A暫く固まってたもんね」

「オレは真波に驚いたな。三歳児が自分が生きてるって喜んでるんだぞ」

「真波くんも不思議だよね」


こんなところでも園児の話をしてしまうのはやはり職業病だろうか。まぁ、こういったところでしかこういう話はできないし、楽しいから良しとしよう。


「二人は良く飲みに行ったりするのか?」

「んー・・・だいたい週末とか土曜日とかはお疲れって二人で乾杯するよ」

「寂しいンだねェ」

「友達いないわけじゃないよ、彼氏はいないけど」

「友達少ないけどね」

「名前A!?」


友達いないわけではない。確かに少ないけど。名前Aと指折り数えるくらいしかいないけど。


「そういう二人はどうなの?」

「彼女か?いないな!」

「作る暇ねェしなァ」

「荒北はオレと違ってモテないからな」

「ウッゼ」


やめてあげてよ東堂、荒北が可哀想だよ。本当にモテないのに・・・いや、名前Aは荒北のこと好きだけどね。


「変なこと考えてるでしょ」

「え!?べつに?」

「ふーん、・・・あ、すみません」


呼鈴を鳴らし店員を呼び、お酒を追加して、いつもよりハイペースで飲む名前A。きっと好きな人を目の前にして緊張しているのだろう。


「オレも生中追加で」

「いつもより飲むな荒北」

「ッセ!!!」


緊張しているのは荒北もですか。・・・早くくっついてほしい。くっついたら寂しいけど。






「あらきたは目つきがわるいの!」


酔っ払いの声が私達のいる個室に響いた。酔っ払いっていうのは名前Aのこと。こんな名前Aを見るのは何年ぶりだろう。


「はァ?ンな事知ってるヨ」

「あははっ、かーわいいなぁ」


酔っ払いの名前Aは別人だ。いつものクールビューティーはなくなってしまう。


「いや。どこに可愛い要素があるのか分からんね」

「とーどーはー・・・カチューシャださいね〜」

「これはファッションの一環だ!!」

「ださいよ!!ほんとーに!!」

「カチューシャはな・・・」


東堂のカチューシャがダサいと言う名前Aに東堂はカチューシャの良さを語り出した。


「そろそろ帰らねェ?」

「私もそろそろ辛い、帰ろ」

「んー・・・」

「そうだな」


会計を出そうとすれば、それを制して東堂と荒北が出してくれたのでお礼を言っておいた。


「名前A、歩ける?」

「へーき!!だいじょーぶ」

「呂律回ってねーだろォ」


名前Aはフラフラだった。荒北が名前Aを支えている。


「私送ってこうか?」

「お前ンち何処だヨ」

「私の家はあっちで、名前Aの家はこっち」

「逆方向だな、それはならんよ。夜中に女子が一人で歩くのは危ないからな」


東堂ってそういうことろ、ちゃんと考えてくれるんだ。東堂が頑なに送ることを止めるので、名前Aを送れない。


「オレが苗字A送ってくヨ」

「荒北の家どこなの?」

「園の近く」

「てことは真っ直ぐなんだ」


荒北も方向違うじゃん、と思ったけどそこは口出ししない方がいいのかなと思ってやめた。


「じゃあ名前Aの事頼むね」

「めんどくせェけど仕方ねーなァ」

「え!!あらきたおくってくれるの?やったー」


仕方ないとか言って若干嬉しそうな荒北と、オープンに喜ぶ名前A。カップルかよ!!!!


「お前らも気をつけて帰ンなねェ」

「ばいばい」


そう言って名前Aを支える荒北は名前Aの家に向かって行った。


「それじゃあ、私も帰るね」

「オレもこっちの方向だからな、送るぞ」

「え」

「む?なんだね?こんな美形が家まで送ってくれるんだ、嬉しくないわけがないな!」

「what?」

「おい!?」

「あはは、ごめん、ありがと」


途中まででいいよ、と言えば、オレの家が名前@の家より近かったらな、と言われた。それはつまり私の家より先立ったら最後まで送って行くと言うことなのだろうか。


「苗字Aは酒が入るといつもああなのか?」

「そんなわけないでしょ。いつもは自分で考えて飲むんだけどね、ほら、緊張してたみたい」

「ああ、荒北か」

「え・・・知ってるの?」


東堂の発言に思わず立ち止まってしまった。荒北が名前Aを気にしているのは分かっていたけど、まさか東堂が名前Aが荒北を気にしていることを知っているなんて。


「当たり前だ、オレに知らない事なんてないからな!ワッハッハッ!」

「その自信どこから湧いてくるの?」


話していれば、あっという間に私の住んでいるアパートについた。


「東堂、送ってくれてありがとうね」

「通り道だからな。早く風呂入って髪乾かして寝ろよ」

「お母さんみたいな事言わないでよ・・・また火曜日ね」

「うむ、またな」


アパートの入り口まで送ってもらい、東堂とは別れた。家に入ったところで、洗濯物を取り込むのを忘れていたことに気付いてベランダに出る。


「・・・あれ」


ベランダから見える東堂の後ろ姿。ここから見えるはずがない。私の家より先なら、反対側の道を行くはずなのに、私と来た道を戻っていた。・・・まさか、送るためにわざわざ反対方向まで来てくれた?


「・・・優しいじゃん」


ちょっとキュンとしたことは自分だけの秘密にしておこう。



to be continude


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