オレ達が入居してから1ヶ月とちょっと。一つ屋根の下に暮らせば打ち解けるのは普通より早ェ。それなりに他の奴らも仲良くなってる。達木も桝田も最初はビクビクしてオレに近付こうともしなかったくせに、今じゃ普通に話しかけてくる。渡辺と東堂は今だにアレだけど・・・っつーか、帰って来ねェからなァ、アイツ。鈴木がそろそろ説得しに行くなんつってたけどォ
夕食後、さっそく渡辺に電話をかけている鈴木。
「ヒA、今日帰ってこなきゃ絶交だから」
・・・説得って、それだけかァ?そんなんでアイツが帰ってくるワケ・・・
ガチャッ
「絶交やだァァァァァァァ」
帰ってきやがった。マジかヨ、愛されてンなァ鈴木。
「暫く泊まり禁止だからね。他人の家に行っても夜中になるまでに帰ってこなきゃ荷物全部外に出すから」
「ごめんヒ@〜〜」
「あ、ヒAおかえりー!」
「流石ヒ@」
ほぼ1ヶ月帰ってきてねぇっつーのに、軽いなコイツら。
「バイトはいつやすみ?」
「明日」
「じゃあ、明日当番ね。・・・東堂と」
鈴木なりに気を遣ってンのか、わざわざペアを組む必要の無い二人にペアを組ませた。
「あー・・・うん・・・。ていうかヒ@彼氏できた!?前に一緒に歩いてると・・・フガッ!?」
「・・・部屋、行こうか?」
「は、ハイ・・・」
オレには見えねーけど、鈴木は怒ってンだろーなってのが見て取れる。・・・つーか、カレシいんのォ?鈴木の奴。
ガチャッ
「・・・そんな所で突っ立って何をしているのだ?」
あれから五分くらいか?東堂が帰ってくるまで自分がボーッとしていた事に気付かなかった。
「あ?いや別に」
「そうか?早く風呂に入って寝ろよ」
「・・・そういや東堂」
「む?なんだね」
「・・・渡辺、帰ってきてんぞ」
オレがそう言った途端に、すれ違ってオレに背を向けていた東堂が止まって振り返った。そりゃァもう笑える顔で。
「ま、頑張れヨ」
「・・・ああ」
部屋に戻って行く東堂。さて、オレは何でこんな所で突っ立ってボーッとしてたんだか。分かってても分かりたくねェ、認めたくねェ事だってあんだろ。例えば、恋人がいる奴を気にしてる・・・とか。
「ったく、面倒くせェ」
冷蔵庫から、今日買っておいたベプシを出して一気に飲む。
「あれ、荒北まだここにいたんだ」
「ブッ!?」
「ちょっと!?大丈夫?」
イキナリ話しかけられたと思えば、相手は鈴木。思い切りベプシを吹き出してしまったオレにタオルを差してくれる。本当コイツは気が利く。
「・・・そういやァ・・・カレシ、良かったネ」
「あ、うん。ありがとう・・・」
そう言って笑った鈴木は、今まで見たことない表情で、思わず固まった。恋をする女は綺麗になるって言うからなァ。
「じゃあ、おやすみ」
「オヤスミ」
オレも合コンでもして彼女つくっかな。
大学は二限まで。来る必要ねぇだろ、と思ったが行かねーとうるせェからな東堂の奴。まぁ練習量増えるからいいけどネ。大会ちけーし。
終わった頃にはもう夕方。暗くなってっしロード引いて歩いて帰るか。
「本当ごめん!!でもオレ、お前の事マジで好きなんだって!!」
「信じられるわけ、ないでしょ」
「本当だって!!今の彼女が怖くて別れられないんだよっ」
公園を通り過ぎようとした所で、カップルが何か言い争う声が聞こえた。うっわ胸糞ワリィ、ンなモン室内でやれって。
「ヒ@っ!!!頼むよ!!!」
・・・ーー!!!ヒ@?ヒ@って、鈴木も同じ名前だった様な・・・。確信は無ェけど、オレの視線は自然とそっちに向いた。
・・・鈴木だ。
「オレ、アイツとは別れるから!!だからヒ@とは別れたく無い!」
「だから私もう無理だって・・・」
アイツと別れるって、浮気かしてンのかこのクソ男。鈴木の表情はここからじゃ見えねェけど、男は必死。
「頼むよヒ@・・・」
「離して!!」
「オレはヒ@が良いんだよ!!」
「だったら彼女と別れてから私と付き合えば良かったでしょ!」
・・・彼女と別れてからって、まさか浮気相手は鈴木の方ってことかヨ?男は必死になって離れようとする鈴木の身体を離さない。そろそろヤベェんじゃねーの?
「私とは別れる、それでもういいでしょ?それで終わり!」
「嫌だ!!!」
鈴木に文句言われっかもしれねーけど、ここは出るか。オレは二人の元へ向かうと、そのまま男を引き剥がして鈴木の前に立つ。
「あんまり人の嫌がる事してンじゃねーヨ」
「な、なんだよお前!!」
「あ・・・あら、きた?」
驚いてオレの名前を言う鈴木の声は震えてる。男は
「ワリィな、こいつオレの彼女なんだわ」
「はぁ?!」
「遊ばれてたのはオメーって事だヨ。じゃーなァ」
「お、おい待てよ!?どういう・・・」
鈴木の手首を掴んで、歩き出そうとしたオレと鈴木を止める男。
「オメーさァ、次コイツに関わったら・・・喰っちまうからァ」
高校の時の様にガン飛ばしてやれば、男は腰を抜かした。そのまま鈴木を連れて公園を出る。片手にロードで片手に鈴木。家まではそう遠くない。
「ワリィな、中入っちまって」
「・・・・・・ううん」
「・・・あのさァ・・・」
一旦止まって、斜め後ろを歩いていた鈴木が隣に止まる。
「泣きたいなら泣けばいいンじゃねーのォ?オレは見てなかった事にしてやっから」
「・・・っ」
「泣け泣け」
そう言うと、我慢していたものが一気に溢れ出た・・・って言う言葉がピッタリなくらい、鈴木は思い切り泣き出した。
あんな最低な奴でも、好き、だったンだよな。オレも嬉しい様なムカつく様な。
取り敢えず、今度アイツ見かけたらブン殴ってやろ。
to be continude
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