IH 初日
インターハイ当日。
「流石真波。見事に遅刻」
「困ったもんだなァあいつには」
キキッ
バスがレース会場に到着して、私達はバスから降りた。去年優勝した私達は王者。周りからの視線が熱い。
『それでは開会式を始めます。まずはこの人達にステージに上がってもらいましょう』
「あ、真波」
ステージに上がった箱学レギュラーメンバーを、部員と私はステージの下から見上げていた。
「ん、これはイカン。女子の視線が俺のみに集中しているようだな」
「集中してねーよ」
「いいや、視線が突き刺さるようだ」
「ステージ見てるだけだろ」
「いいや、ステージの俺を見ているのだ!ん?あのチェックのワンピ、明らかに俺を見ているな」
「そして逸らしたな」
「フッ、照れているのだな」
「お前の彼女怖ェーぞ」
「ち、違うぞ燐!これはだな!」
「うっせーよ!」
東堂のあのナルシストどうにかならないの。近くにいた私には丸聞こえだった。
『それでは、箱根学園の皆さんに今年の抱負を聞いてみましょう』
『来たんだね!坂道くん!』
『あ、あの、今のは抱負ですかね?坂道を登るという・・・』
真波はどこかを見ると、マイクを奪い取って叫んだ。真波の視線の先を見てみれば、メガネの男の子がいた。・・・あれは、総北?
『それでは、会場の選手達にも抱負も聞いて見ましょう!こんにちは』
『ちわ』
『高校はどちらですか?』
『京都伏見です』
『これはお友達のバイクですか?』
『いや、僕のです』
『え、ああ、でも、君くらいの身長だともっと大きなフレームがちょうどいいのだと思うんですけど』
『ええんです。フレーム小さい方が使うてる材料少ない分軽いんで』
『ちょっと、異様なスタイルですね』
『足りひん部分はサドルとハンドル目一杯前に出して対応します。まぁ、僕なりの軽量化です』
『成る程!で、今年の抱負を聞かせて・・・』
『ほな貸して』
『ああっ』
細くて身長の高い男は、マイクを奪い取ってステージに上がる。
『今年の抱負は・・・箱学、ブッ潰しまーす』
「!」
『みんな覚えといてやー。京都伏見一年、御堂筋翔くん。このインターハイを踏み台にして、世界へ羽ばたく男でーす』
「ちょ、ちょっと君ィ!」
『おおきに』
この気色の悪い男、御堂筋はマイクを投げ返す。
「御堂筋!!」
「今泉くん・・・」
「お、千葉。おお、その頑張り過ぎた目つき、覚えとるわ!久しぶりやなぁ、弱泉くん」
「・・・」
「プッククッ、ごめん、思い出し笑いしてもうたわ!」
「なんやスカシ?あの京都の男知り合いなんか?」
「今泉くん・・・」
近くに来た弱泉と呼ばれていた・・・今泉くん?はとても悔しそうな顔をしているのが分かる。赤毛の子も、メガネの子・・・坂道くん?も心配そうだ。
「あの日の試合面白うて面白うて。皆にも聞いてもらおか?」
「余計なことは言わなくていい!」
「なんや、つまらんなぁ」
「俺はこれだけを言いに来た!!俺はお前のような卑怯な手は使わない!!このインターハイ、正々堂々と勝負してあの大会の仮を返す!!!」
「キモッ、今の顔キモかったキモかったッ!あん時と同んなじ顔や!キモォッ!!!キモッ、キモッ、キモッ、キモォッ!!」
お前がキモいよ
「僕が卑怯やて?おいおいアレは弱泉くんが五分七秒差僕につけられて無様に失速したのが原因やんか」
「っ!!」
「追いつく気力なくして、毎分90回転維持出来ず落ちていったんが敗因やんか。人のせいにするのちゃうと思うで?そういうの、逆恨み言うねんでー?今のお前、人としてキモいでー」
「貴様っ!!」
「ヒーッ怖い怖い。本当君って単純やね?あの時と変わらんわァ。普通信じるん?レース中にお母さん死んだ言われて」
「!!」
「おもろかったであの顔。その後みるみる失速。でも分かってるやろ?それは弱泉くんの覚悟がそんだけやってゆーだけの事や。僕は母親死んだくらいでペダル緩めたりせんよ?甘泉くん」
「御堂す・・・」
「おんどれ!!ええ加減にせんかい!!今泉はそんなヘボちゃうで!!自転車乗りやったらな・・・」
「!」
赤毛の子を総北の主将金城さんが止めて、御堂筋を福富が止めた。
「自転車乗りなら、勝負は道の上でしろ」
「そやね、うん、了解了解。ほな、道の上で。行くで、ザク」
御堂筋は他の京都伏見のメンバーを連れて去っていった。
『間も無く、スタート五分前です。各選手はスタートラインにお並び下さい』
「燐!俺の走りを見ていろよ!」
「あー・・・うん」
東堂は先頭に並んでいるにも関わらず、私に向かって大声で話しかけ、手を振って来た。本当にやめてほしい、恥ずかしいから。荒北が突っ込んでくれて良かった。
『インターハイ神奈川県ロードレース男子、一日目スタートです!』