IH 最終日
「おおお!箱学来たァ!!」
「東堂くーん!」
箱学が通るだけで、周りからの声援が凄い。ああ、嬉しそうな顔してるな東堂。めっちゃドヤ顔だな東堂。
『各選手はスタートラインに並んで下さい』
スタートラインの戦闘は箱学と総北。
「あ、幹ちゃん!おはよう」
「おはようございます。渡部さん」
「あはは、燐でいいよ」
スタートライン付近に並んでいると、隣にいたのは総北の可愛いマネージャーの幹ちゃん。運がいい。朝から癒される。天使。特に胸の辺りが。
トンッ
「可愛いのう、あんたら」
「きゃ!」
「っ!」
いつの間にか私と幹ちゃんの肩に腕を乗せて来ていた赤茶色の髪の男。睨みつければ、男は嬉しそうに笑った。
「彼氏おるん?一年生?こっちは二年か三年生かな?え?彼氏おらんの?ほんじゃワシと付き合わんか?このレース終わったら」
「燐!!っお前・・・」
「やめろ東堂!」
「尽八!」
東堂が男を睨みつけ、此方に来ようとするが荒北と新開に止められる。
「おい!ちょ、お前離れろ!」
「寒咲さん!」
「勿論、タダとは言わんけえ」
ぽんっと肩を叩いてから男は離れて箱学と総北に向き合った。
「このレース、ワシがトップでゴールしたらで、どうじゃ?」
「それは無理です。後続とはタイム差がありますし、私達はこの日の為に厳しい練習をしてきましたから」
「なかなかロードレースを分かってるお嬢ちゃんじゃのう。一理あるのう・・・けどワシ、持っとるよ?星。ワシは広島呉南高校三年の待宮栄吉じゃ。昔から悪運の強い方でのう、最後の最後で勝つんじゃワシ。これが面白いくらいに。一日目、小田原のクランクで落車に見舞われたんじゃ。うちのメンバー三人もじゃ。けどのう、まとまって走っておいあげて、気付けゃ昨日、二日目のタイムアウトは五十人、走れる選手の中の六人全員残っとるんじゃ。総北さん、あんたら星、持っとる?」
男・・・待宮は仕切りを飛び越えた。
「総北さん、あんたら持っとる?星じゃ、勝利を引き込みつきを呼び込む星。え、ワシか?持っとるよ!多分、あんたら以上に」
『いよいよ、スタート八分前です!』
ゼッケン31・・・つまり前回大会三位。
「おいこら!ワイら集中してるんや!前出るなやボケェ!」
「ちーとじゃちーと。用が終わったらすぐ穿けるけん、こういう時はお互い様じゃろ」
「待てこらー!お前が一方的に割り込んできたんやろ!」
「・・・実はワシ、魔法使えるんじゃ」
「はァ?!魔法て・・・」
鳴子くんの言う通り、魔法なんてバカじゃないのこいつ。
「めちゃめちゃ僅差だったらしいのう、昨日のゴール前。チームは途中でバラバラになっとったのに、気が付きゃ最後は箱学と互角のゴールスプリント。いやァ、ほんま金城くんは・・・持っとるのう、星」
待宮は金城の手を撫でている。・・・何をしているんだ。と思ったら今度は福富の前に移動した。
ガシッ
「福富くーん!!!」
「「「「「!!」」」」」
「なんのつもりだ、やめろ」
「持っとる持っとる、アンタも持っとるのう、星。第一、第二ステージ連続優勝。ダブルイエローゼッケン。いやァ、ゴイスーじゃ」
「やめろと言っている」
福富の制止の声も聞かずに福富の腕を撫で続ける待宮。
「もうちーとじゃ、もうちーと頼むわ、なぁ?これがワシの魔法なんじゃ。ワシこうやって持っとる奴の星、吸い取る事が出来るんじゃ」
「!」
「全部吸い取るまでじゃ、な?」
「オイ!!」
「ふざけた陽動作戦やってンじゃねーぞ!?このボケナス!!」
「やめろ荒北」
「・・・」
「構わない、そういうものは信じない」
「去年のインターハイ、ワシ、エースでのう。最終日三日目、残り4キロで六番手で走っとったんじゃ。タイム差は絶望的、ほじゃけど残り3キロ、前のやつがパンク。残り1キロでその前のやつが落車。その前のやつがコースミス。気付けゃワシ、総合三位の表彰台に昇っとたんじゃ。今日の三日目、ワシら呉南と先頭の差は十五分、正直厳しいタイム差じゃ。それをひっくり返すのは相当無理がある。けどのう、100%無理じゃあない。何が起こるか分からんのがロードレースじゃ!」
それだけ言うと、帰ろうとする待宮。それを意外にも坂道くんが止めて何か言うと場の雰囲気は少しだけ和らいだ。
『スタート三分前です』
もうすぐインターハイ三日目がスタートする。先程から東堂の視線が物凄く刺さる。理由は分かっている。
「・・・はぁ」
取り敢えず目で大丈夫と訴えておこう。これ、レース終わったら色々うるさいんだろうなぁ。
『インターハイ最終日、スタートです!!!』
インターハイ三日目が始まって、箱学からは福富、新開、残りのメンバーの順にスタートをした。・・・過酷な三日目、無事に全員ゴールできればいいんだけど。
何より、あいつが気になる。広島呉南の、待宮栄吉。
何かしでかしてきそうだ。