『警告します。愚かな人間共の手により、致死性のウイルスが蔓延しました。残念ですが、人類は滅びます』

「っ!」
「ミカ!院長先生が・・・」
「優ちゃんは皆を見て!!先生!先生!!」

倒れている院長先生の体を揺らしても反応は無かった。ミカが何度も呼びかけても、何も無い。

ガタッ

「っ!」
「ゆう兄・・・」

下から物音がして、皆構える。しかし私達にはどうする事も出来ずに捕らえられ車に乗せられた。

吸血鬼の手によって。

それから四年・・・ーーー

「まっず」
「いつまで経っても馴れないよね」

吸血鬼による血液採取が終わった後、これを飲むのが何よりも嫌いだった。それでも飲まなきゃ身体が持たないので、仕方なく飲んでいるのだが

「また飲まないの?身体壊すよ」
「飲めるかよ、こんな不味いの」

優はいつも飲まなかった。優の性格じゃあ、飲まないのも当たり前か。

「はぁ、優ちゃんはグルメだね」
「お前らこそ言いなりになってんじゃねぇよ」
「そんなに悪くないと思うけどね」
「マジかよ!?」
「ここじゃ殺される事も無いし、何より家族で暮らせてる。それで十分じゃない?」
「俺は家畜じゃない」
「もう、優ちゃんも分かってるんでしょ?意地張ったってどうにもなんない・・・って」

優に投げられたドリンクのゴミをミカが避けた時に、後ろにいた小さな子供達の奥から現われた吸血鬼に気付く。

「オイ!!」

しかし気付くのが遅かった為に子供達はまるで当たり前かの様に手を踏まれ、身体を蹴られた。優はすぐに吸血鬼に食らいつくが、呆気なく捕まった。

「優!!」
「謝れ!謝れよ!!」
「あの、ごめんなさい!彼、すっごいバカで口も悪くて、だからあの、許してやって下さい!」
「やめろミカ!!こんな奴、俺がブッ飛ばして・・・」
「こんにちは」

あと一歩遅かったら、吸血鬼の手が優を貫いていただろうそんな時に現れたのは、吸血鬼の貴族だった。解放された優に急いで駆けつける。

「フェリド様!」
「やあ、ミカくん。何してたんだい?」

何故ミカが吸血鬼の貴族と親しいのかはすぐに理解が出来た。いつも青白くなった顔で帰ってくるから。

「何でもありません。家族が粗相をしでかしまして」
「君も大変だね、何かと。それより、今夜も僕の館に来るのかい?」
「お願いします!」
「いい子だね。君の血は美味しいから大歓迎だよ。今日はそっちの子も来るのかな?」
「は?行くわけね・・・」
「彼は恥ずかしがり屋さんなので、また」

またも暴言を吐く優を庇うように話すミカ。

「そう、それは残念。彼女はどう?」
「この子も恥ず・・・」
「私も今夜行かせてもらってもよろしいですか?」
「名前!?何言って・・・」
「大歓迎だよ。今夜、待ってるよ」
「はい!・・・行くよ」

二人の腕を掴んで脇道を入って、吸血鬼から離れてから手を離すとすぐに優からは苦情の言葉が出る。

「お前、貴族と知り合いなのかよ?」
「文句ある?フェリド様は血を提供したら何でもくれるんだ。美味しい物も食べれるし。やっぱここで生きていくには、容量良く頭使っていかないとね」

そう言うと、優はミカを殴ってまた前に進む。

「優ちゃん、優ちゃんも何か欲しいもの・・・」
「ねーよ!!」

優が行ってしまってから、ミカの標的は私に変わる。

「で?名前はどうしてあんな事言ったの?」
「ミカだってしてるでしょ?どうせこういう事するのは自分だけでいいーなんて思ってるんでしょ」
「それは・・・」
「・・・何か欲しいものがあるんでしょ?私も手伝うよ」

最後までミカに反対されていたが、無理言ってついてきて吸血鬼の館についた。中に通してもらうまでに沢山の吸血鬼に遭遇した。

「やあ、待ってたよ」

フェリド様、とミカが愛想笑いをすればフェリドも嘘くさい笑みを浮かべた。私も作り笑いしてお辞儀をする。先にミカが血を吸われているのを見て、少し強くなった。吸血鬼の鋭い歯がミカの首筋にプツリと刺さる。ミカも痛みに顔を歪ませていて、暫くして唇を離されたミカは顔色が悪かった。

「次は君だね。名前はなんて言うのかな?」
「百夜名前、です」
「名前ちゃんかぁ、よろしくね」

ミカが心配そうに見ている中で、フェリドが私の首筋に吸い付く。

「っ、君も美味しいね。癖になりそうだよ」

一旦離されて、そう言われた後にまた吸いつかれる。離された時にはもう、貧血で立っているのがやっとだった。


ガチャッ

「・・・あれ、起きてたの?」
「帰ったよ、優ちゃん」
「・・・おっそい」

皆が寝ている場所へ行けば、優が起き上がっていてふて腐れたようにそっぽを向いた。

「おかえりは言ってくれないの?」
「取り敢えず、お前らの分のカレーは食った」
「うそ!?」
「さいあく!!」
「嘘だよ、がきんちょ共皆喜んでた。で、あのカレーの為にお前は何された?」

黙り込むミカを見て、優はため息を吐く。

「ったく、今度は俺が血を売るよ」
「優ちゃんの血なんて不味くて売れないよ」
「は?」
「うそ。優ちゃんは吸血鬼を倒してくれるんでしょ?それまでは僕が・・・」
「ふざけんな!お前一人で背負い込むな!俺だって、俺だってバカじゃねーんだ。吸血鬼を倒すなんて・・・っ」
「それ以上は無しだよ。優ちゃんの言葉、この子達は信じてるんだから。吸血鬼は倒せる、俺たちは負けない、そう繰り返す優ちゃんの言葉・・・っ、さ、カレー食べよ!」

涙ぐみながら言うミカに、私まで泣きそうになった。でも泣いたら、優の言葉が実現できないような気がして必死に堪えた。

「はい、優のカレー!」
「どうせ食べてないんでしょ?」
「いらねーよ」
「だーめ。これはお願いじゃなく、命令です」
「何でお前の命令なんか・・・!」

カチャ、とミカが優に向けたのは一丁の銃。

「じゃん。何故なら優ちゃんはこれで、吸血鬼と戦わなくちゃならないからです。お腹減ってちゃ戦えないでしょ?」
「お前・・・」
「でもそんなの別に大したモノじゃないんだ。・・・じゃーん、この街の地図。出口までバッチリのってまーす」
「お前、まさかあの貴族から?」

今日、フェリドに血を吸われた後にミカについて行ってこの二つを手に入れた。足取りの覚束ない私は足手まといでは無いかと思ったが、吸血鬼が気を抜いていた為に案外あっさりと手に入れられた。

「フェリドの屋敷広くてさ、探すのに手間取っちゃったんだよねー。ただで吸血鬼に血を吸われるタマじゃないのだよ、このミカエラ様は!」
「で、どうせこんな事だろうと私もついて行ったってわけ」
「ま、それも今日でおしまいだよ!・・・一緒に逃げよう」

ミカの言葉に固まる優。

「大丈夫大丈夫、もう計画済みだから!ミカエラ様に任せなさい!」
「でも、ウイルスはどうすんだよ?外は死の世界だって」
「あれ確か13歳以下には感染しないんでしょ?僕ら今何歳だっけ?」
「12歳だろ?」
「残りの一年で考えよ。僕らなら、百夜孤児院の家族が集まればきっとどんな事でもなんとかなる!」
「計画的なのか無計画なのかわかんねぇ奴だな、勝手に決めやがって」

ギシッと階段の音がして其方を見れば、寝ていたあかねが目を擦りながら私達のところへ来た。

「どうしたの?まだ起きてるの?あ、おかえりミカ、名前。優ちゃん、カレー食べてくれたんだ?」
「・・・分かったよ、行こうぜ!」
「うん、行こう!あかねちゃん、皆を起こして!」
「え?なに?」
「この世界にさよならするんだ!」

それから皆を起こして、地図を開いてどの道を行くのか決めた。そこから決行するのは早くて、ミカの持っている地図の通りに進んでいく。

「ねぇミカ兄どこいくの?」
「くらいところいや」
「夜に出歩いちゃだめなんだよ!」
「いいのいいの!なんせ僕らこの世界にバイバイしちゃうから」

急に夜になって出かけることになった子供達はわけがわからないのだろう、ミカに質問の嵐。

「え?どうして?」
「バイバイしてどこ行くの?」
「それはね・・・」
「元の世界に帰るんだ!そうしたら、毎日カレーが食えるぞ!」
「ほんとに毎日カレー!?」
「じゃあハンバーグは・・・っ!?」

ミカが口を押さえて、皆にも静かにする様に合図した。吸血鬼が来ることを想定して隠れれば、案の定吸血鬼が此方を確認しにきた。その後も順調に進んでいけば、出口はすぐそこ。

「あはー。待ってたよ、哀れな子羊くん達」

あと少し、あと少しなのに。私達の目の前に現れたのは・・・フェリドだった。

「・・・っ」
「そう、その顔。希望が突然消え去る時の人間の顔・・・だからこの遊びは辞められないんだよねぇ」
「遊び?・・・っ!!」
「あらら、もう死んじゃった」

一瞬だった。ほんの一瞬で一人殺された。

「っくっそぉおお!!!」

優が吸血鬼に銃を放つも、いとも簡単に避けられる。

「あれ?それ僕の銃じゃない?地図だけじゃなくて銃も盗ったのか。いいね、君らは。まだ抵抗できる元気があるんだ。じゃあもう一つ希望をあげよう。実はあの地図本物なんだ。その道をまっすぐ走れば元の世界に戻れる。外に出られたら僕はそう簡単には追えない。その希望と絶望の狭間で、君らはどんな声で鳴くのかな」
「っ逃げろ!!走れ!!」

優が銃を放った瞬間、子供達は一気に走り出した。しかし、それも一瞬だった。どうする事も出来ず、動くことすら出来ずに、家族が一人、また一人と殺された。

「やめろぉおお!!!」
「僕は君たちの絶望した顔が見たいんだ」
「あかね・・・っ」

もう、私と優とミカしか残っていなかった。

「忘れないで、優ちゃん、名前。僕らは、家族だ」
「ミカ!!」
「あっは、ミカエラくん、君の血は美味しかったなぁ。ご馳走様」
「ミカぁあああ!!」

胸を貫かれ、腕ごと銃を飛ばされたミカの元へ急いで駆けつけるが、それよりも早く優が拾った銃でフェリドの頭を撃った。

「ミカ!!」
「おいミカ!!」
「いって、」
「ふざけんな!お前も一緒に行くんだ!!一緒にっ」
「ぼくたち、を、むだにしないで」
「いや!!ミカ、はやく・・・っ」
「俺の家族、やっと、手に入れたのに!置いてなんか・・・っ、」

優と私でミカを引きずっていこうとするが、ミカに突き放された。

「行けよ早く!!バカ!!」
「・・・っ優、行くよ!!!」
「でもっ」

私は優の手を引っ張って走った。


ミカを置いて、逃げた。





「っミカ!!!」

飛び起きてみれば、そこはベッドの上で。この時の事が夢に出てくるのは久し振りだった。



to be continude


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