優と共にあの地獄から抜け出して早4年が経った。幼かった私達も、保護をしてくれたグレン中佐によって訓練を受けながら日本帝鬼軍へと入隊した。
失ったものは多いが、そこで立ち止まっている暇なんてない。今もどこかで吸血鬼の脅威にさらされている子供達がいるのだと思うと、憎い吸血鬼達をこの手で殺してやりたくて仕方なくなる。

と意気込んでいたものの、優が謹慎処分を食らって何故か止めなかったからと言ってとばっちりで私も一緒に渋谷の高校に行かされる事になった。

「・・・どうすんだっての」
「どーしたの優ちゃん」
「その呼び方やめろ」
「オイ、百夜優一郎、何をぶつぶつ言ってる?授業中だぞ!」

授業中にも関わらず喋る私達に向かって、教師は注意を促した。私は謝罪の意味を込めて軽く頭を下げたが、優は無視。

「お前何だその態度は!教師バカにしてると停学にするぞ!?」
「え!?停学にしてくれんの!?マジで!?じゃあ、それでお願いします」
「ふざけるな!!お前完全にバカにしてるだろ!?」
「ちょっと優!そんな事したらまた・・・」

私が口を挟もうとした時、隣に座る優の背中を後ろにいる女生徒が小突いた。

「あ?何だよ?ていうかお前誰・・・ん?」

可愛らしいその女生徒は、何か書かれたノートを優に見せる。

【私は柊シノア。軍からの監視官です。】
「監視官・・・?」
「【もし、あなたが協調性の無さそうな行動をしたら、軍に報告して謹慎を延長することになってます。】・・・はあ!?どういう事だそれ!?」

またも大声を出した優に教師が怒鳴るが、優は聞かない。軍からの監視官という女生徒、シノアからのメッセージに苛立った優は大声を出し続ける。

「協・調・性」

しかし、シノアの言葉に仕方なく椅子に座った。

「・・・ちなみにこの謹慎は友達が作れない限り解けないことになっています。頑張ってお友達を作ってくださいね」

友達・・・か。幼い頃から優達だけと一緒にいた私は友達の作り方なんて知らない。私が百夜孤児院に馴染めたのも全て・・・今は亡きあの子のおかげだから。



「ねぇ、帰りアイス食べようよー」

授業もHRも終わり、部活や学校帰りに遊びに行く生徒が続々と教室から出て行く。

「待ってて、ぼくちんもアイス大好きなんだよねぇ・・・って、皆に声をかけに行ったらどうです?」
「何なんだよお前は?馴れ馴れしいな」
「グレン中佐に言われました。あなたは子供時代に吸血鬼に家族を皆殺しにされたせいで他者と触れ合えなくなっていると。仲良くなった後、再び失うのが怖いから。だから怖くて怖くて、仲間や友達、恋人も作る事が出来ない・・・まぁ、名前さんは元から馴れ合いが苦手みたいですけどね」
「別に苦手ってわけじゃないけど・・・」
「てめぇ、人のこと勝手にベラベラ喋ってんじゃねえよ!」

シノアに掴みかかる優に、私は焦って止めようとするが、彼女は何も動じない。

「・・・触れ合いましたね」
「くだらないこと言ってねえで早く俺を吸血鬼殲滅部隊に入れろって馬鹿グレンに伝えろ!俺達にはもう、奴らを殺せる程の力があるってな」
「・・・と言い出すだろうと、これを渡せと中佐に言われています」

優の前に一枚の紙を差し出すシノア。

「何だグレンの奴、分かってんじゃねぇか・・・【仲間も恋人も作れないような童貞は軍には入れませーん。悔しかったら友達作って俺に紹介してみろ。まあ、お前には無理だろうけどな。】」
「・・・ぷっ、あははははっ!残念だね優!」

読み終えた優は紙をぐしゃぐしゃに丸めて投げ捨て教室かは出て行った。急いで後を追えば、その後ろからシノアもついてくる。

「何だよお前、どこまでついて来る気だよ?もういいだろここで」
「そうはいきません。あなた達は監視対象者ですからね。軍鬼違反は即中佐に報告です」

「やめてよ!」

私達のいた下駄箱のすぐ側で、男子生徒の声がした。一斉に振り返った私たちは、倒れている男子生徒を目にする。

「あ?やめてだぁ?俺ら友達だから買い物頼んでるだけだろ」
「・・・平和だねぇ。じゃ、俺帰るから。行くぞ名前」
「あ、うん・・・」

良いのだろうか、あれを放っておいても。いじめ、なのかな。

「お前、俺らの仲間になりたいんだろ?なら働けよ?家畜みてぇによ」

家畜・・・その言葉に足を止めた優は、いじめられている男の子の方へと向かう。

「オイ、その辺にしとけよ」
「あれ?情報と違って意外といい奴ですね」
「優、問題起こさないでね」

男子生徒をいじめていた男三人は、優の周りに集り出し、ガムをくちゃくちゃと食べながら優を睨む。

「まさか正義の味方ッスか?」
「それとも何?お前が与一の代わりにパシられてくれんの?」
「いやぁ、お前ら分かり易くて良いや。なんか嬉しいなぁ、良いよ?喧嘩か?やるか?」
「あ。言い忘れてましたが、民間人に手を出したら謹慎延長ですから」
「はぁ!?」

瞬間、優は顔面を殴られた。シノア、わざとギリギリまで言わなかったでしょ。



「何で俺がパシリ・・・」
「ご、ごめんね!僕のせいで・・・」

結局手を出せずにパシられてしまった優といじめられていた彼、与一で飲み物や食べ物を買わされていた。

「おい名前、シノア、お前らも持てよ」
「やだ」
「面白いジョークですね〜」
「こいつ・・・!」
「ごめんね!」
「お前もさっきからヘコヘコ謝ってくんな!大体何なんだよ?なんであいつらにいじめられてんだ?」

よくもまあそんなデリカシーの無い事が聞けますね優ちゃんは。

「いじめられてるわけじゃ・・・」
「はいはい、いじめられてる奴は皆そう言うんだよ」
「本当にいじめられてるわけじゃないんだ!ぼ、僕が山中くんにお願い事があって・・・だから、仲間に入れてほしいって頼んだんだ!」
「山中って誰だっけ?」
「成る程、脳みそ0ですね」

その言葉を聞いた優はシノアに飲み物を投げるそぶりをする。

「三人の誰かじゃない?」
「さっき百夜くんを殴った人だよ」
「あいつか・・・で、何?頼み事?」
「僕・・・その、帝鬼軍の入隊試験落ちたんだ。どうしても入りたくて。山中くん、吸血鬼殲滅部隊の月鬼ノ組入りが内定してるらしくて」
「月鬼ノ組!?あいつが!?俺も入れねぇのに!?グレンの奴ブッ殺す!!」
「あぁ、優!飲み物落ちた!!」

私は焦って転がった缶を拾うが、優はどうでもいいらしく見もしない。

「だから山中くんのツテでもう一度入隊試験を受けさせてもらえないかなって。変なのは分かってるんだけど、こんな弱っちいのが軍なんて・・・でも・・・どうしても、お姉ちゃんの仇がとりたくて」
「仇?」
「お姉ちゃん、僕を庇って吸血鬼に・・・あの時、助けに行けなかったから。だから・・・」

優は拾った一つの缶で与一の頭を小突く。

「バァーカ、助けに行ったら死んでたよ。お前は間違ってない」
「っでも・・・」
「でもじゃねぇ、悪い事言わねぇから入隊なんてやめとけ。なにより、姉貴も復讐なんて望んでねぇだろ」

そんな事を言った優だが、それは優自身にも言える事だ。優は、家族を吸血鬼に殺されてその復讐の為に吸血鬼殲滅部隊に入った。・・・私だってそうだ。吸血鬼が憎い、憎くて堪らない。家族を・・・私の大切な人を殺した吸血鬼が憎い。

「っ!」

その時だった。大きな爆発音と共に後ろの校舎が爆発した。吸血鬼が脱走したという校内放送が流れる。

「何故こんなところに吸血鬼が!?」
「この学校に吸血鬼がいるの!?」
「あなた達は避難してください!私は月鬼ノ組に出動要請に・・・」
「いらねぇ!吸血鬼は俺が殺す!!実際に殺して、グレンの奴に認めさせてやる!!」
「優!?っもう・・・」

吸血鬼の所へ行く為に走り出した優の後を追って私も走ったが、途中で人ごみに飲まれて優を見失う。

「っあのバカどこに・・・」
「百夜くん!!」

近くでガラスの割れた音と、与一の叫び声が聞こえて其方を見てみれば、吸血鬼に首を絞められている優がいた。教室から落ちたのだろう、上には与一がいる。

「優!!」

やられる・・・そう思って走って優はを助けようとしたが、何者かと手で制される。

「・・・っ!グレン中佐」
「キーキーうるせえんだよ、ヴァンパイア」

優の血を吸おうとした吸血鬼は、グレン中佐の鬼呪装備に貫かれ灰になって消えた。

「なんだその姿は?お前アホか?抗吸血呪もかかってない一般兵器で吸血鬼狩れるわけねーだろ」
「邪魔すんじゃねーよ!もうちょいで殺せたんだ」
「へぇ?」
「本当だぞ!」

鬼呪装備を仕舞ったグレン中佐は、優から離れる。

「・・・だがまぁ、今回は餓鬼の割には良くやった。お前のおかげで犠牲が少なくて済んだ。学校の友達も守ったな」
「俺は!・・・友達なんて興味ねぇ・・・っつか、俺の実力見ただろ!俺は吸血鬼とやり合える!月鬼ノ組に入れろ!」
「やーだね。俺チームワークできない奴嫌いだし」
「あーは、中佐が一番チームワーク出来ないですけどね〜」

いつのまにか現れたシノアはグレン中佐の隣まで来て緩んだ笑みを見せる。

「兎に角、シノアに伝言させた通りだ。お前はこの学校で友達つくれなきゃ・・・」
「友達友達うっせーんだよ!吸血鬼殺すのに友達なんていらねぇ!」
「ああっ!良かった!百夜くん無事だったんだ!?死んだかと思ったぁ!?おっととと!?わぁーっ!!」
「あーあ」

教室から急いで下まで来た与一が優の所まで行くために段を飛び降りバランスを崩して優を巻き添いにして倒れた。下敷きにされた優は気絶してしまった。

「なにあれ?」
「友達みたいですよ?一応。これで約束守らなきゃいけなくなりましたね、中佐」



「おはよ、優」
「百夜くん!良かった!シノアさん!百夜くん目を覚ましましたよ!」
「あ、起きました?」

気絶した優が目を覚ましたのは夕方。手を伸ばしてはっとした顔をしている優を見て何の夢を見ていたのかすぐに分かった。私も同じ夢をみるから。

「あなたと名前さんは今日付けで吸血鬼殲滅部隊に配属される事に決まりました」
「え?」
「良かったね二人共!」
「早乙女与一さん、あなたも入隊が認められましたよ。身を呈して友達を守るというあなた方の姿勢が評価されたのです。という事で私達、あなたの大嫌いな仲間ですね」

私は何もしていないけどいいのだろうか。と聞きたいところだが入隊出来るのは嬉しいし、ラッキーとでも思っておこう。

「ようこそ、月鬼ノ組へ」

シノアが手を差し出して、与一もその上に手を重ねる。私も真似て重ねるが、優は手を出そうとしない。

「・・・優ちゃーん」
「百夜くんも!」
「・・・クソ」

不服そうにしながらも、頬を紅くして手を重ねる優。これからは彼らが仲間になる。初めて出来た、あの子達とは違う、仲間が。



to be continude .. . .


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