※ 高校卒業して遠距離になるお話
※ 神奈川と静岡じゃそう遠くないので宮城から静岡へって事になってます。スンマセン。
※ 一人暮らしじゃなくて寮です。



三月二日、高校を卒業。そしてその翌日、恋人の靖友は早くも宮城を出て進学先の静岡へ行くことになっている。暫く会えないだろうと、昨日はずっと一緒にいた。沢山キスして、抱き合って、沢山泣いた。今日は絶対に泣かない、そう誓って。

繋いでいた手を離して改札を通って中に入れば、帰宅ラッシュの為に周りは賑やか。いつも二人で高校から帰る時と全く一緒、なのに今日は「また明日ね」が言えない。靖友は離していた手を再び握り直す。少し歩いて、既に停車している電車の前で足を止めた。


「ンな顔すんじゃねーヨ、一生会えねぇわけじゃねぇんだから」
「そんな変な顔してるかな、私」
「あーしてるヨ。すっげーブス」
「なにそれ、靖友には言われたくないよ」


少しだけ笑えば、靖友も優しい顔で笑った。明るく見送るはずだったのに、うまく笑えない。気を緩めたら泣いてしまいそうだ。


「毎日電話すっから」
「うん」
「連休の時はこっち来るから」
「・・・うん」


私の為に、そこまでしてくれる靖友は本当に優しいと思う。あっちで、良い人を見つけたらどうしよう。私なんかよりずっと可愛くて、性格良くて、ワガママじゃない素敵な子を見つけたら、どうしよう。


「・・・またブスになってんぞォ」
「・・・うるさい」


いつだってそう、考え事をすれば一番に気付いてくれる靖友。一緒に居なくたって、電話してるだけでも私の異変に気付いてくれる。初めて出会った時は靖友が怖くて仕方なかった。だけど関わっていくうちに、日を重ねるごとに靖友のいい所を見つけては好きになっていった。


プルルルルルルッ


ドアが閉まる音。私は靖友と繋いでいた手を離した。


「またね」
「おぉ」
「・・・っ靖友!!」


離れていく靖友。行かないで、と言ってしまいそうになって口を噤んだ。それでも勝手に身体は動いて、気付けば追いかけて靖友を抱きしめていた。


「名前・・・」
「ごめん・・・っ」


私に応えてくれる様に靖友は私の背中に腕を回して抱き締めてくれる。


「・・・手ェ貸せ」
「・・・ん」


ゆっくり手を差し出せば、靖友は私の手を両手で包み左手の薬指に何かを通す。


「・・・っこれ・・・」
「本当は次会った時にでも渡そうと思ってたんだけどネ。ンな不安そうな顔されたら我慢できねーヨ」


薬指にはシルバーの指輪。靖友の薬指にもいつの間にか指輪がついていた。


「不安になったらこれ見て安心しとけ。オレも大事な大会の時以外これは外さねーからァ」
「ありがとう、やす・・・んっ」


靖友、そう言おうとしたのに出なくて、気づいたら靖友に唇を塞がれていた。


「バァーカ、心配すンな。ロード乗るのに必死でオメー以外の相手する暇なんて無ェからァ」
「・・・うん」
「じゃあ・・・あっち着いたらすっから」
「・・・ばいばい」


ドアが閉まって、遠ざかっていく靖友。二度と会えない訳じゃないのに、遠くに行ってしまう、それだけの事が悲しくて、電車が行ってしまってから声を押し殺して泣いた。

周りの目も気にせず散々泣いて、やっと収まった頃にはもう辺りは真っ暗だった。ふと自分の手を見れば、靖友に貰ったペアリング。靖友から始めてもらったペアの物。彼は素直じゃない、だからこんな物貰えるだなんて思ってなかった。

私のために一生懸命選んでくれた事を想像すると凄く愛おしい。

指輪を見ていると、離れていても繋がっている気がして何故か安心する。

靖友も、きっとそう思ってるよね?

私は指輪に触れて、悲しみを振り払う様に駅を後にした。

数ヶ月、我慢すればすぐに靖友に会える。


それまでは、この指輪を見て頑張ろう。



to be continude


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